9/24/2014

ゴールデンタイムはあるのか?

Nutrient timing revisited: is there a post-exercise anabolic window?
http://www.jissn.com/content/10/1/5

Alan Albert Aragonの関わった論文。2013年のもの。栄養摂取に関するこれまでの研究のレビュー論文。

巷間では、ワークアウト直後の短い時間に栄養摂取をしないとウェイトトレーニングの効果が低くなると言われている。いわゆるゴールデンタイム。英語だと anabolic window と言われる。そんなに摂取タイミングにシビアになる必要があるのか?という論文内容になっています。以下、抄訳。

★グリコーゲン回復
- 筋グリコーゲンレベルが高いとアナボリックになりやすく、筋グリコーゲンレベルが低いとカタボリックになりやすい(AMPKなどが関係する)。
- 筋グリコーゲンは運動直後の炭水化物摂取で回復が速い。炭水化物摂取が遅れるとその後の数時間は筋グリコーゲン回復速度が遅くなる。
- だが一日に複数回の激しい運動をするのでない限り、次のワークアウトまでにはグリコーゲン回復時間が十分になるので、神経質にならなくても良い。

★筋分解
- 運動後の栄養摂取は、運動後のカタボリックを防ぐ効果。インスリンレベルの上昇によってカタボリックが防がれる。運動後に絶食が続くとカタボリックが優勢になり、筋肉のタンパク質のネットバランスがマイナスになる。
- インスリンの抗カタボリック効果は空腹時の3-4倍程度のインスリンレベルでプラトーに達する。実験によると、このインスリンレベルは通常の固形物の食事やホエイプロテインパウダー(45g)のみで十分に達成可能。
- そもそも通常の食事の消化吸収には時間がかかるので、運動前に十分に栄養摂取してない場合にのみ、運動直後に速やかにインスリンレベルを上げたほうがよいということになる。
- また運動後の筋合成/筋分解でネットバランスに寄与するのは筋合成の方が大きく、筋分解抑制による寄与は小さい。従って、カタボリックを防ぐために運動後に慌ててインスリンレベルをスパイクさせることにどれだけ効果があるかは疑問。

★筋合成
- 運動と血中アミノ酸濃度の上昇を組み合わせることで筋合成が大きく上昇する。炭水化物の摂取が筋合成を上昇させるかについては、効果ありという研究と無しという研究とがある。
- 摂取タイミングを数時間遅らせたケースに対しての、運動直後のアミノ酸(タンパク質)摂取の優位性は一貫して示されてはいない。ありなし両方の研究がある。ありの方も、持久運動だったり実験デザインに欠陥があったりで強固なエビデンスとは言いがたい。
- また被験者がトレーニング歴があるか初心者かによる違いもある。
- そもそもこれらのacute研究で調べられている運動後数時間の筋合成/筋分解によるネットバランス変化が、長期の筋肥大にそのままつながるかは不明である。

★長期での筋肥大
- 研究の数が少ないし、実験結果がまちまち。運動前後の栄養摂取が効果ありという研究もあれば無しという研究もある。それに加えて実験デザインにより解釈に注意が必要。
- タンパク質vsプラシーボの場合、一日トータルのタンパク質摂取量に違いがでるので、筋肥大の結果の違いが摂取タイミングによるものかトータルのタンパク質摂取量によるものかわからない。
- 運動前と運動後の両方にタンパク質摂取している研究が多く、運動後摂取による効果の切り分けができない。
- 期間が短いと測定方法の性能限界により、筋肥大に差が出ているかわからない。

★ディスカッション
- 運動直後にすぐに栄養摂取することは、長期の筋肥大を最大化するのに非常に重要であるという主張を裏付ける決定的なエビデンスは今のところ無い。
- 空腹状態で運動をした場合は、その直後に栄養摂取をすることは効果的であろう。例えば、朝起きて何も食べずにワークアウトを行った場合は、直後の栄養摂取が推奨される。
- 実際に多くの人が行うトレーニング/栄養摂取プログラムを考えると、運動の1-2時間前にしっかりした食事を摂取すれば、運動後まで消化吸収は続いているので、運動前中後に渡って身体には栄養供給が行われていることになる。また運動直前の20gのホエイプロテイン摂取でも運動後3時間まで筋合成レベルが上昇していたという研究もある。このように運動前に栄養摂取を行った場合は、運動直後に再び栄養摂取を行うのはリダンダントであろう。通常の食事間隔で次の食事を摂れば、栄養摂取は十分だろう。
- 前の食事から運動まで3-4時間以上空く場合は、運動直前か運動直後の栄養摂取が推奨されるだろう。
- これまでの研究結果からは運動直後の栄養摂取の効果については曖昧な答えしか出ないが、シビアな結果を求めるアスリートは、あるかもしれない効果に賭けて運動直後に栄養摂取するのも良いだろう。効果がなかった場合でもコストは低い。

★実践
- タイミングは運動直前直後に拘らず、運動前と後の両方に0.4-0.5g/除脂肪体重kgのタンパク質を含む食事の摂取が、シンプルでフェールセーフなガイドラインだろう。この運動前と運動後の食事の間隔は3-4時間以上空けない方がよいだろう。ただ、食事の量が多い場合は5-6時間空けるのも良い。
- 例えば、運動前食事→90分休み→運動を60分間→90分休み→運動後食事だと、食事の間隔は4時間となりガイドラインに沿ったものになる。個人の好みやライフスタイルによって食事と運動の間隔はフレキシブルに調整可能である(図1参照)。もちろん一日のトータルのタンパク質摂取量は重要である(※)。
- 炭水化物の摂取タイミングについては、はっきりとした推奨方法を示すには一貫したデータを欠いている。一日のトータルの摂取量を決めて、それを守れば、タイミングはあまり気にしなくて良いのではないだろうか。





※筋肥大を目指してウェイトトレーニングを行う人の一日のトータルのタンパク質摂取量についての私の追記コメント。専門家によって推奨している数字が違うんだけど、維持カロリー以上摂取しているなら1日トータルで2g/体重kgの摂取で十分だと思われる。これでも一般的な推奨値よりも多め。多めでも食費がかかる以外には特にデメリット無いし。基本的には、カロリー不足、運動強度が高い、初心者、といった要因があると必要なタンパク質摂取量は増える。


関連記事:
タンパク質の摂取タイミングの効果についてのメタ解析研究

0 件のコメント:

コメントを投稿