6/29/2016

高タンパク食の健康への影響

[前提]
人間を対象とした長期のコントロール実験を行い実際に発病するかどうかを確認するのは予算的にも倫理的にも無理なので、長期の疫学調査と、短期の実験で病気と関連のある指標が変化するかを見て、それと動物実験の結果を見て、健康への影響を推測している。

明確な共通の定義がないが、高タンパク食というのはだいたい1.5 g/kg/day以上。


★腎臓
まとめ:既に腎臓に問題がある人は、高タンパク食を避けることで病状の進行を抑制できる。健康な腎臓の人は高タンパク食でも問題ないだろう。健康な腎臓は高タンパク食に適応できると思われるが、タンパク質摂取量を増やす場合は、一気に増やさず徐々に増やし段階的に適応させるのが良いだろう。

・既に腎臓に問題がある人
- 高タンパク食を避けることで病状の進行を抑制できる。これはほぼ確実。
- 日本腎臓学会のガイドラインだと、ステージ3以降(GFR60以下)でタンパク質の摂取量が制限される。
- 高タンパク食が悪影響を及ぼす経路の一つとして、機能低下した腎臓には酸負荷が問題になるようだ。

・健康な腎臓の人
- タンパク質の摂取量を増やすことが腎臓の仕事量を増やし、腎臓の機能を損なうという主張がある。しかし腎臓片方摘出後や妊娠時には腎臓の仕事量が増えるが、それで腎臓病になるわけではない。
- 高タンパク食では腎臓の仕事量の指標であるGFRが上がったり腎臓が肥大したりするが、これは高タンパク食への正常な適応だと思われる。
- アスリートは一般的に高タンパク食だが、アスリートが腎臓病になりやすいというエビデンスは無い。
- 脂質異常症、肥満、高血圧といった腎臓病になるリスクの高い人を対象とした高タンパク食ダイエットの実験でも腎機能の低下は報告されていない。
- 健康な腎臓の人においては、長期(疫学調査)でも短期でも高タンパク食による腎機能の低下を示した研究は無い。
- 比較的長期の動物実験でも、健康な動物が高タンパク食で腎臓を壊すという研究は無い。

・酸負荷
- 高タンパク食と高ナトリウム食は、腎臓の酸負荷を増やす。
- 病気(アシドーシス)と判断されるレベルまでいかなくても、体内のわずかなphの傾きでも健康に悪影響を与える可能性がある。
- 野菜や果物を十分に食べた方が良い。

・GFR:糸球体(Glomerular)の濾過(Filtration)速度(rate)
- 腎機能の指標。健康な腎臓は血液をどんどん濾過して要らないものを尿として排出できる。これが低下してくると濾過が進まなくなるので、体内に要らない物質が残り続け健康に悪影響が出る。
- 健康診断の腎機能の項目にあるeGFRは、血清クレアチニン値と年齢と性別から算出される推定のGFR。濾過機能に異常があるとクレアチニンの排出が滞り血清クレアチニン値が上昇するので、血清クレアチニン値からGFRを推定することができる。正確なGFRはイヌリンを使って計測されるが、一般的にはクレアチニン・クリアランス検査で測定する。


★腎臓結石
まとめ:おそらく体質によって結石の出来やすさが異なる。結石が出来やすい体質の人は高タンパク食を避けるのが安全だろう。

・結石が出来やすい体質の人に推奨される、結石の種類別食生活。
- シュウ酸カルシウム結石では、動物性タンパク質とシュウ酸とナトリウムを減らし、カルシウムの摂取量は維持し、クエン酸とカリウムの摂取量を増やす。
- リン酸カルシウム結石では、ナトリウムを減らす。
- 尿酸結石では、インスリン抵抗性が最大の問題なのでまず体重を減らす。野菜を多く食べる。あとプリン体を多く含む動物性タンパク質を減らす。
- どの種類の結石でも水分を十分に取った方が良い。


★骨
まとめ:高タンパク食の場合は、カルシウムとビタミンDを十分に摂取することで骨を強くするだろう。また果物と野菜を多く食べることも重要だろう。

- 高タンパク食では尿からのカルシウムの排出が増える。これが高タンパク食は骨を脆くするという主張につながっている。
- しかし、高タンパク食ではカルシウムの吸収率が上がることで尿からの排出量も増え、骨由来のカルシウムの排出が増えているわけではないことを示す研究がある。
- タンパク質には、骨基質の材料を提供する、カルシウム吸収率を上げる、IGF-1の生成を促進するといった骨の健康にプラスになる効果がある。IGF-1は骨芽細胞の活動を活発にし、腎臓でのリン酸塩の再吸収を促進する。
- 中和のために骨が分解され、カルシウムが放出されるという酸負荷による悪影響が仮にあるとしても、果物と野菜の摂取を増やすことで防ぐことが出来るだろう。(腎臓が健康なら酸は問題なく処理できると思うが)


★肝臓
まとめ:健康なら問題ないだろう。ただ絶食後に大量のタンパク質を摂取するのは避けたほうが良いだろう。

- 肝硬変ではタンパク質摂取量を減らす。
- マウス実験で48時間の絶食後に高タンパク食を与えたら肝臓にダメージが出た。


★大腸がん/心臓病/健康全般
まとめ:脂質の多い加工肉は食べ過ぎないようにする。果物と野菜を食べ、運動をするのも大事。

- タンパク質摂取量の多い人は、脂質の多い加工肉を多く食べ、野菜や果物はあまり食べず、運動せず、太っている傾向がある。疫学調査で高タンパク食が数々の健康リスクにつながるという結果が出るのは、これらの他のファクターが影響している可能性が高い。
- 脂質の少ない加工されていない肉には健康にポジティブな効果がある。



参考:
Controversies Surrounding High-Protein Diet Intake: Satiating Effect and Kidney and Bone Health
http://advances.nutrition.org/content/6/3/260.long

Dietary protein intake and renal function
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1262767/

Protein Controversies
http://www.bodyrecomposition.com/nutrition/protein-controversies.html/

Can eating too much protein be bad for you?
http://examine.com/faq/can-eating-too-much-protein-be-bad-for-you/

知ればなるほど! CKD患者の電解質・酸塩基平衡
http://www.kayexalate.jp/report/pdf/kayexalate_REPORT07.pdf

慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル 〜 栄養指導実践編
http://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/H25_Life_Diet_guidance_manual.pdf

Nutritional aspects of stone disease
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12474643

Optimum Nutrition for Kidney Stone Disease
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1548559512002212

Self-Fluid Management in Prevention of Kidney Stones
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26166074


関連記事:
タンパク質摂取量の目安

7 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

    返信削除
  2. はじめまして、現在減量をしている者です。
    チートデイについて質問したいのですが、維持カロリーを大幅に上回るカロリーを摂取した場合、すべてのカロリーは吸収されず、ある程度に留まる(例:2300kcalが維持カロリーの人が3000kcalを摂取→700kcal吸収 5000kcalを摂取→1500kcal程度の吸収に留まる)と考えているのですが、これは正しいでしょうか?

    返信削除
  3. はじめまして。
    その例えですと、5000kcal摂取すると消費カロリーが3500kcalに増えるということでしょうか?
    1000kcalのカロリーオーバーを8週間続けた実験で、平均では500kcal程度消費カロリーが増え、最も良い人は1000kcal近く消費カロリーが増えて体重が0.36kgしか増えなかったというのがあります。5000kcal摂取をずっと続けた場合、体質が非常に恵まれているなら消費カロリーが3500kcalになるかもしれません。
    ただ、減量時に1日だけ5000kcalを食べても、おそらく消費カロリーはそれほど増えないと思います。(炭水化物メインで食べていると仮定して)余剰カロリーはまずグリコーゲンの補充に回されます。あふれたカロリーが代謝に関わるホルモンレベルを引き上げるとしても、反応が出るまでタイムラグがありますし、体脂肪量の水準もホルモンレベルに大きく影響します。

    返信削除
    返信
    1. なるほど、では余剰カロリーの2700kcalがそのまま吸収されるのでしょうか。

      削除
    2. 食事誘発性熱産生で5-10%は消えるので、余剰カロリーのうち200kcalくらいは熱として消えますね。あとは基礎代謝とNEATが増えるかどうかですが、研究が無いのでなんとも・・・。自分の身体で試してみて、うろうろしたり貧乏揺すりをしたりといった無駄な動き(NEAT)が増えていれば消費カロリーも増えていると思います。
      個人的には、チートデイはグリコーゲンの補充とメンタルの回復を主目的とした方が良いと思っています。

      削除
  4. 既に腎臓に問題がある人にとって、クレアチンが影響することはあるのでしょうか。

    返信削除
  5. 少数ですがクレアチンが病状を悪化させたという症例が報告されていますね。
    安全を期すなら腎臓に問題がある人はクレアチンの服用は止めたほうが良さそうです。

    返信削除