7/13/2016

筋肥大のメカニズム

The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training.
http://www.lookgreatnaked.com/articles/mechanisms_of_muscle_hypertrophy.pdf

Schoenfeldの2010年の論文から、筋肥大のメカニズムについての部分を抄訳。

ただ、Schoenfeldの新著が昨日届いて、最新の情報が詳しく書かれているようなので、読み終わったらこの記事は加筆訂正するかも。PDFだと安くなる。

この分野に限らず、海外の一流科学者が一般向けの書籍を書いてくれるのはありがたい。

私の知識が足りないため、訳がわかりにくかもしれないです。詳しく知りたい場合は、元の論文やリファレンスにある論文を読むか、Schoenfeldの著作を読むと良いと思います。


★筋肥大と過形成
・筋肥大(hypertrophy)
- 収縮要素(筋繊維)が大きくなり、細胞外マトリックス(骨格筋の場合は筋膜)が拡張する。筋繊維の肥大は、筋節が直列または並列に付着することで起こる。
- 骨格筋が過負荷を受けると、筋原線維の収縮タンパク質であるアクチンとミオシンの量とサイズの増加をもたらし、平行方向に並ぶ筋節の数を増やす。その結果、筋繊維の断面積が大きくなる。
- 直列方向の筋節の増加は、筋肉を伸ばしっぱなしで長期間固定(ギプスなど)したり、ラット実験だと下り坂トレーニングを続けたりすることで起こる。逆に縮めっぱなしや上り坂トレーニングを続けたりすると筋節が減る。つまり環境に合わせて筋繊維の長さが調整される。
- 筋肥大は、非収縮性要素と水分の増大によっても起こる。これは筋形質の肥大と呼ばれる。筋形質の肥大は機能を持たないとよく言われるが、慢性的な細胞の膨張はタンパク質合成を手助けし、収縮要素のより大きな成長をもたらす可能性もある。

・過形成(hyperplasia)
- 筋繊維の数が増える。
- 筋繊維の数の増加については、動物実験で起こる、特に伸張性の負荷(エキセントリック動作)で大きく起こることが報告された。しかし後の研究でこれは数え間違いによるものではないかと論じられている。人間において過形成が起きるというエビデンスは無く、もし仮に起こるとしても筋肥大への寄与は非常に小さいものであろう。


★サテライト細胞と筋肥大
- 筋肉は分裂終了細胞なので、細胞の置き換わりはほとんど起きない。タンパク質の合成と分解の動的な平衡を通じて、細胞の状態を保つ。筋肥大はタンパク質の合成が分解を上回る時に起きる。
- サテライト細胞は、基底膜と筋鞘の間に存在する筋原幹細胞。通常は非活発だが、十分な力学的な(メカニカルな)刺激が骨格筋に加わると活発になる。活発になったサテライト細胞は増殖し、既存の細胞にくっつき、筋肉組織の修復や成長に必要な前駆体を提供する。
- サテライト細胞は筋繊維に新たな細胞核を提供し、収縮タンパク質を新たに合成するキャパシティを増やす。筋肥大の際の筋肉の細胞核と筋繊維量の比率は一定なので、筋繊維量の上限を引き上げるには細胞核を増やす必要がある。
- サテライト細胞は、筋肉の修復や成長を促進する調整機構にも関わる。


★筋肥大シグナルの経路
・メカニカルなストレスがかかると化学的なシグナルが発現
- Akt/mTOR
- MAPK
- Ca2+

・ホルモンとサイトカイン
多くのホルモンが関わるが、研究されることが多いのを三つ。

[IGF-1]
筋肉にメカニカルなストレスがかかると筋肉組織で生成される。また肝臓で生成された体内を循環しているIGF-1を、より多く利用するようになる。いくつかのアイソフォームがある。運動後に筋肉組織でIGF-1のレベルが高まり、筋繊維への効果が72時間続くことが確認されている。IGF-1は筋合成速度を上昇させるだけでなく、筋肉組織でのIGF-1はサテライト細胞を活性化させ、増殖と分化を手助けする。またサテライト細胞の筋繊維への付着も促進する。Ca2+の筋肥大経路も活発にする。

[テストステロン]
血液中のテストステロンは大部分がアルブミンかグロブリンと結合している。2%が遊離テストステロンで、これが各組織のアンドロゲンレセプターと結合して効果を発揮する。筋肉へのテストステロンの効果は運動なしでもあるが、メカニカルな負荷があるとよりいっそう大きな効果をもたらす。タンパク質の合成促進と分解抑制の両面から、筋肥大をもたらす。また成長ホルモンの分泌を刺激するといった間接的な効果でも筋肥大をもたらす。サテライト細胞の複製と活性化も促進する。テストステロンの抑制はレジスタンストレーニングへの反応を大幅に減らすことが示されている。

[成長ホルモン]
アナボリックとカタボリックの両方の効果がある。脂肪細胞を分解し、筋肉を含むタンパク質へのアミノ酸の取り込みを促進する。免疫機能や骨などにも関わる。脳下垂体前葉で分泌される。運動無しでは睡眠中に最も多く分泌。運動により分泌。運動後の成長ホルモンの上昇は、筋繊維の肥大と相関するという研究もある。レジスタンストレーニングに加えて成長ホルモンを投与しても、より一層の筋肥大は起こらなかった。ただこれは運動直後の成長ホルモンの急騰とは異なるので、運動直後の急騰が筋合成に関わっていないかどうかの結論はまだ出せない。

・細胞の膨張
- 細胞が水分を多く含んで膨張すると、タンパク質合成の促進と分解の抑制の効果が発揮される。
- 詳しいメカニズムははっきりとはわかっていないが、細胞膜への圧力の増大が細胞への脅威と認識され、それが超微細構造の強化につながる反応をスタートさせるのではないか。
- レジスタンストレーニングは細胞内外の水分のバランスを変化させる。特に解糖系のトレーニングで、細胞の膨張は最大化される。乳酸塩の蓄積が骨格筋の浸透圧の変化をもたらす。速筋は特に浸透圧の変化に敏感。
- 筋グリコーゲンの貯蔵量を増やすトレーニングも、細胞の膨張を増大させる可能性がある。グリコーゲン1gは水3gとともに貯蔵される。

・筋肉の低酸素状態
- 運動なしであっても筋肥大の効果があることが示されている。寝たきり状態で、一時的に血流を止める施術を行うと筋肉の萎縮を抑制できる。
- 血流を止めた状態で低負荷トレーニングを行うと(いわゆる加圧トレーニング)、高負荷トレーニングと同等の筋肥大効果が得られたとする研究がある。
- なぜ効果があるのかは理論がいくつかあって、乳酸塩の蓄積の増大と除去速度の低下、それによる細胞の膨張や成長ホルモンやIL-6などの上昇、産生された酸化窒素(NO)がサテライト細胞の増殖を促進したりMAPKシグナリングを活性化させたりする、虚血後の充血でサテライト細胞の活動が活発になる、など。


★レジスタンストレーニングでの筋肥大反応を開始する3つの要素
メカニカルテンション
筋肉へのダメージ
代謝ストレス

・メカニカルテンション(力学的な張力)
筋繊維の収縮で力を生み出すことによるものと、筋繊維が引き伸ばされる(エキセントリック)ことによるものがある。これらのメカニカルな張力は、筋肉の成長に必須だと考えられている。
- レジスタンストレーニングによるメカニカルなストレスが化学的な反応に転換され、筋繊維とサテライト細胞での分子的で細胞レベルの反応を引き起こすと考えられている。
- エキセントリック収縮での受動的な張力による筋肥大反応は速筋に特有のもので、遅筋では見られない。

・筋肉へのダメージ
- 弱い筋節は筋原線維の異なった箇所に存在していて、不均一な繊維の伸張が筋原線維のせん断を引き起こす。これは細胞膜を変形させ、カルシウムホメオスタシスの混乱とダメージをもたらす。
- ダメージが身体に検知されると、免疫機能が働き、これによりサテライト細胞の増殖と分化を調整する成長ファクターが働く。
- また神経筋接合部にはサテライト細胞が多く存在し、ダメージを受けた筋繊維へ神経が作用し、サテライト細胞を活性化させる可能性もある。
- エキセントリック動作で起こりやすく、特に速筋に起こりやすい。同じトレーニングを続けると起こりにくくなる。

・代謝ストレス
- ボディビル的なトレーニング、いわゆるバーン感が出るトレーニングで起こる。
- 無酸素解糖運動により、乳酸塩、水素イオン、無機リン酸塩、クレアチンといった代謝物質が蓄積される。これによるホルモン環境の変化、細胞の膨張、フリーラジカルの発生、成長関連の転写ファクターの活性化、酸性環境による筋繊維の分解の増大と交感神経の刺激がもたらす適応的な筋肥大反応の増大、といった経路で筋肥大が起こると考えられている。

 

関連記事:筋肥大をもたらす刺激(2019年版)



2 件のコメント:

  1. 筋肥大についての論文の参考にさせてもらいます。

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  2. 論文の参考にさせてもらいます。

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