12/19/2017

限界まで追い込んだ場合と追い込まなかった場合の回復の違い

Time course of recovery following resistance training leading or not to failure.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28965198

各セット限界まで追い込んだ場合と、限界レップ数の半分で止めた場合の、トレーニング後72時間の疲労回復の経過を比較した研究。


★実験方法
種目はスミスマシンでのベンチプレスとスクワット

重量はすべて10RM(75%1RM)

以下の3パターンについてトレーニング後72時間までの回復の経過を比較している。

(1) 3セット×5レップ(非限界)
(2) 6セット×5レップ(非限界)
(3) 3セット×10レップ(限界)

(2)と(3)のパターンは、トレーニングボリュームを等しくしつつ、非限界と限界で疲労度合いがどう変わるかを調べている。

コンセントリックを全速力で挙上しているので、非限界パターンはパワートレーニングになっている。被験者はトレーニング歴あり。レジスタンストレーニングに慣れているので、普段トレーニングしている人の参考になる。


★疲労度合いの測定項目
血液検査
- アンモニア、テストステロン、コルチゾール、成長ホルモン
- クレアチンキナーゼ(筋肉のダメージの指標)

運動パフォーマンス
- カウンタームーブメントジャンプ(以下CMJ)
- ベンチプレスとスクワットの中重量での挙上速度(疲れていると挙上速度が低下する)


★結果
非限界パターンは3セットも6セットも、トレーニング直後のCMJが低下したのみで、ベンチプレスとスクワットの挙上速度はトレーニング直後も翌日以降もパフォーマンスが変わらず。

限界パターンは、スクワットとベンチプレスの挙上速度が24-48時間後まで低下、CMJは48時間後まで低下。またトレーニング直後のパフォーマンスの落ち込みが激しい。

クレアチンキナーゼを見ると、非限界6セットパターンはトレーニング48時間後にベースラインに戻ったのに対し、限界パターンは72時間後にベースラインに戻った。上昇の程度も限界パターンの方が大きく、トレーニングボリュームが同じでも限界まで追い込んだ方が筋肉のダメージが大きいことが示唆される。



☆コメント
トレーニングからの疲労回復にかかる時間は概ねボリューム依存で、例えば高強度・低レップトレーニング(8セット×3レップ)と高ボリュームトレーニング(8セット×10レップ)とでは、高ボリュームトレーニングの方が回復に時間がかかることがわかっている。

Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men.
https://www.researchgate.net/publication/315684978_Comparison_of_the_Recovery_Response_from_High_Intensity_and_High_Volume_Resistance_Exercise_in_Trained_Men

今回の研究は、トレーニングボリュームが同じでも、追い込み度が高いと回復に時間がかかることが明確に示されている点が新しい。

全セット限界までやった方が疲労が大きく回復に時間がかかることはわかった。では、トレーニングの効果はどうなのだろう。限界までやった方が筋肥大とストレングスの向上は大きくなるのだろうか。

一回のトレーニングセッションがもたらす効果を考えてみると・・・
筋肥大を促す刺激は大きく分けて、メカニカルテンション、代謝ストレス、筋肉へのダメージと言われている。ボリュームが等しい(メカニカルテンションが等しい)場合、限界までやった方が代謝ストレスと筋肉のダメージが大きくなるので、より強い刺激が筋肉に入ると考えられる。

長期的な視点を考えると・・・
例えば今回の研究のような「1部位あたり限界までを3セット」or「1部位あたり限界レップ数の半分を6セット」というトレーニングメニューを週2回ペースで続けていくなら、限界までやった方が筋肥大とストレングスの伸びは大きいと思う。このメニューだとトレーニングボリュームが小さいので、全セット限界までやっても身体が扱えるボリュームと疲労の限度まで余裕があるだろう。トレーニングにあまり時間が割けず、限られた時間でなるべく効果を得たい場合は、このようなボリュームの小さいトレーニングメニューを、セット間インターバルを長めに取りつつ全セット限界までやるのも良いと思う。

しかし例えば、「1部位あたり補助種目も含めて限界までを10セット」を週3回ペースで続けたりすると、おそらく身体のキャパシティを超えてしまう。限度を超えた疲労によりトレーニングの質が低下したり、ストレスレベルが高くなりアナボリックに不利な体内環境になったりして、トレーニング効果が低下する恐れがある。

またトレーニングセッション内での悪影響もある。限界まで追い込むとトレーニング直後のパフォーマンス低下が激しいので、スクワットやベンチプレスで全セット限界までやると、その後の補助種目や同じ筋肉を使う種目で質の高いトレーニングが行えなくなる。

トレーニングボリュームを増やし、なるべく速いペースで向上しようとする場合は、非限界セット中心にトレーニングを続けた方が長期的にはトレーニングの質と量を増やせてよりよい結果を出せると思う。

競技の補助としてレジスタンストレーニングを行う場合は、限界までやると疲労が大きすぎて専門のトレーニングに支障が出るだろう。トレーニングスケジュールとの兼ね合いもあるけど、限界までやらない方が良いだろう。

実践を考えると、今回の研究のように10RMの重量で5レップだと追い込み度がやや低いかもしれない。このレップ数なら出来るだけ速く挙上するパワートレーニングが推奨される。筋肥大トレーニングでボリュームを積みたい場合は、限界まで1-4レップ残し程度、例えば10RMの重量だったら6-9レップ程度が良いと思う。


関連記事
各セット限界まで追い込むべきか

フレキシブルなトレーニングプログラムの組み立て方

筋肥大のメカニズム

11/30/2017

主働筋-拮抗筋のペアードセット

主働筋-拮抗筋ペアードセット(paired set)と通常セット(traditional set)を比較した研究を調べてみました。

主働筋-拮抗筋ペアードセットは例えば、ベンチプレス1セット目→ロウイング1セット目→ベンチプレス2セット目→ロウイング2セット目→ベンチプレス3セット目→ロウイング3セット目 といった感じで主働筋-拮抗筋が入れ替わる種目を交互に行うトレーニング方法。

通常セットは例えば、ベンチプレス1セット目→ベンチプレス2セット目→ベンチプレス3セット目→ロウイング1セット目→ロウイング2セット目→ロウイング3セット目 という順番で行うトレーニング方法。

研究ではペアードセットと通常セットについて以下のようなポイントを比較している。
・1回のトレーニングにかかる時間
・各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム(重量×レップ数)
・疲労度合い(主にEMGを測定しているけどブレが大きく参考程度にしかならないのでこの記事では割愛)
・長期的に続けた場合のストレングスとパワーの伸び



★ペアードセットの研究
いずれの研究も被験者はトレーニング歴のある若い男性で体格が良い。大学の運動選手の模様。

(1)Volume Load and Neuromuscular Fatigue During an Acute Bout of Agonist-Antagonist Paired-Set vs. Traditional-Set Training.
https://www.researchgate.net/publication/279164429_Volume_Load_and_Neuromuscular_Fatigue_During_an_Acute_Bout_of_Agonist-antagonist_Paired-set_Versus_Traditional-set_Training

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプレス
2種目目:シーテッドロウ

・重量と追い込み度:10RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
同一種目の実質インターバルは約170秒
ベンチプレス1セット目(約40秒)→(移動約10秒)→ロウ1セット目(約40秒)→(インターバル2分)→ベンチプレス2セット目→以下両種目3セット終わるまで続く

b) 通常セット
インターバルは2分
ベンチプレス1セット目→(インターバル2分)→ベンチプレス2セット目→以下両種目3セット終わるまで続く

・ウォームアップ含めてトレーニングにかかった時間
通常セットが16分、ペアードセットが8.5分

<結果>
ペアードセットの方がトレーニングボリューム(重量×レップ数)が多くなった。おそらく同一種目の実質インターバルが長いため、主働筋がより回復できたからだと思われる。

面白いのが、2種目目の1セット目(ロウ1セット目)もペアードセットの方が通常セットよりもレップ数が多くなったこと。(2)の研究でも示されているが、ペアードセットで1種目目と2種目目のインターバルが短いと、2種目目のトレーニングボリュームが増えるようだ。


(2)Effects of different rest intervals between antagonist paired sets on repetition
performance and muscle activation.
https://pdfs.semanticscholar.org/f7df/05325e8fcbcaa14d7a9fd79be50508ba6fb0.pdf

・重量と追い込み度:10RMの重量で限界まで

種目:ニーエクステンションとニーフレクション(ライイングレッグカール)

比較ポイント:ニーエクステンションを10RMの重量で何レップ出来るか

a) ニーエクステンションのみを限界まで1セット(TP)
b) ニーフレクション1セットの直後(移動に約15秒)にニーエクステンションを限界まで1セット(PMR)
c) ニーフレクション1セットの30秒後にニーエクステンションを限界まで1セット(P30)
d) ニーフレクション1セットの1分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P1)
e) ニーフレクション1セットの3分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P3)
f) ニーフレクション1セットの5分後にニーエクステンションを限界まで1セット(P5)

<結果>
b,c,dの順で、ニーエクステンションのレップ数は多かった。つまりニーフレクションからニーエクステンションまでの休憩時間が短いほど、ニーエクステンションのレップ数が多くなった。3分以上の休憩だと、ニーフレクション無しの場合と有意差なし。


(3)Exercise order affects the total training volume and the ratings of perceived exertion in response to a super-set resistance training session
https://www.researchgate.net/publication/221867808_Exercise_order_affects_the_total_training_volume_and_the_ratings_of_perceived_exertion_in_response_to_a_super-set_resistance_training_session

ペアードセットで種目の実施順序を変えた場合のボリューム測定

a) 1種目目レッグエクステンション→2種目目レッグカール(QH)
b) 1種目目レッグカール→2種目目レッグエクステンション(HQ)

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

<結果>
1種目目レッグカールの方がトータルのトレーニングボリュームが多くなった。主働筋-拮抗筋の組み合わせによっては、どちらを先に行うかでトレーニングボリュームに違いが出ることがあるようだ。


(4)The effect of an upperbody agonist-antagonist resistance training protocol on volume load
and efficiency.
https://www.researchgate.net/publication/46288879_The_Effect_of_an_Upper-Body_Agonist-Antagonist_Resistance_Training_Protocol_on_Volume_Load_and_Efficiency

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス

・重量と追い込み度:4RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル2分。

・トレーニング終了までの時間は両方とも同じ。(合計6セットを2分インターバルで行う)

<結果>
ペアードセットの方がトレーニングボリュームが大きくなった。同一種目のインターバルが大幅に違うので当然の結果。

(5)Physical performance and electromyographic
responses to an acute bout of paired set strength training versus
traditional strength training.
http://www.academia.edu/14519745/Physical_Performance_and_Electromyographic_Responses_to_an_Acute_Bout_of_Paired_Set_Strength_Training_Versus_Traditional_Strength_Training

・トレーニング種目:
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス

・重量と追い込み度:4RMの重量で限界まで各種目3セット

・比較ポイント:各セット限界までやった場合のトレーニングボリューム

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル4分

<結果>
トータルボリュームはペアードセットと通常セットで有意差なし。効果量を見ると通常セットの方がごくわずかに上。


(6)Effects of agonist-antagonist complex resistance training on upper body
strength and power development.
https://www.researchgate.net/publication/40454501_Effects_of_agonist-antagonist_complex_training_on_upper_body_strength_and_power_development

これのみ長期の研究で、8週間のトレーニングを行っている。

・トレーニング種目
1種目目:ベンチプル
2種目目:ベンチプレス&ベンチプレススロー

重量:3-6RM

トレーニング頻度・ボリューム:部位あたり合計18–25レップを週2回。実際にどれくらいボリュームをこなせたかは書かれていない。

・セット間インターバル
a) ペアードセット
インターバル2分。同一種目のインターバルは4分。
b) 通常セット
インターバル4分

<結果>
ベンチプルとベンチプレスの1RMは、ペアードセットのみトレーニング前→後の伸びが有意差あり。通常セットも1RMは伸びてはいるけど有意差はなし。

被験者数が少なく、ベンチプレス100kgくらい挙がる人にとってはトレーニングボリュームが少なく、実験期間が短いので、有意差の有無は偶然ではないかと思う。トレーニング前後の1RM変化の効果量を見ると、ベンチプルはペアードセットの方が大きいけど、ベンチプレスは通常セットの方が大きい。

ペアードセットでトレーニング時間を約半分にしても、ストレングストレーニングの効果は通常セットと同じくらい出た、とこの研究からは言える。



★ペアードセットで2種目目のボリュームが増えるメカニズム
(1)(2)の研究では、ペアードセットで1種目目と2種目目のインターバルが短いと、2種目目の限界レップ数が増えることが示されている。

これについてのメカニズムは明確にはなっていないが、論文に書かれている推測メカニズムを書くと、

・拮抗筋を事前に疲れさせることで、主働筋のセットの際に拮抗筋がブレーキとして働く時間が短くなって、差し引きでの力の発揮が大きくなる。ただこれはバリスティックトレーニングで働くメカニズムなので、通常のレジスタンストレーニングではあまり関係がないかも。

・拮抗筋のセットで拮抗筋の腱紡錘と主働筋の筋紡錘を刺激することで、主働筋のセットの時に主働筋が収縮しやすくなると同時に拮抗筋が緩みやすくなり、差し引きで発揮する力が大きくなる。

注意点としては、拮抗筋は関節を安定させる働きがあるので、このようなメカニズムが働いていた場合、関節が不安定になり怪我リスクが上がるかもしれない。


★ペアードセットについてのコメント
トレーニングボリュームを維持しつつトレーニング時間を短縮できるのは明確なメリット。効率よくトレーニングを行うためには積極的に取り入れたいトレーニング方法だと思う。

1種目目と2種目目の間隔を短く(1分以内程度に)することで、2種目目のボリュームを増やせる可能性があるが、これはメリットなのか不明。ボリュームを増やすと次のトレーニングセッションまでの回復時間が長くなるので、長期的に見てトレーニングの質と量を増やせるのかわからない。

また関節の安定性が低下する可能性もある。保守的にやるなら、1種目目と2種目目の間隔は1分以上空けて、肘(アームカール-トライセップスエクステンション)や膝(レッグエクステンション-レッグカール)といった単関節種目でペアードセットを行うのが良いだろう。肩関節のような自由度の高い関節でのフリーウェイトでのコンパウンド種目は怪我のリスクが上がるかもしれない。コンパウンド種目をやるならスミスマシンなどを使った方が良いと思う。

ちなみに私はスミスマシンで、大胸筋のアイソレートを意識したインクラインベンチプレスと、身体を後ろに傾けてバーを掴んで身体を持ち上げるプル動作(Inverted Row)でペアードセットをやっています。

体幹やスタビライザーの役割が重要な種目でも、ペアードセットはフォームが崩れやすくやらないほうが良いだろう。スクワットやデッドリフト(何とペアにするのかわからないが)は不向き。心肺能力面でも困難だろう。

研究での被験者はすべて若いアスリートで、彼らはトレーニングをこなす体力があるし、回復力もあるだろう。自分がペアードセットをトレーニングに取り入れる時は、疲労の溜まり具合や怪我リスク(関節の違和感など)をよくチェックしながらやった方が良いと思う。

またトレーニングボリュームを測定した研究では各種目3セット程度しか行っていないので、セット数が多くなってくるとどうなるのかわからない。ペアードセットだと疲れてボリュームが低下したりフォームが崩れたりするかもしれない。その場合はインターバルを長くする必要があるだろう。


★細かいつっこみ
主働筋-拮抗筋のペアードセットというけれど、ベンチプレスは肩甲骨を寄せるから、ロウ系種目(シーテッドロウやベンチプル)の完全に対称的な動作ではない。腕立て伏せとロウ系だったら、だいたい対称的な動作になるけれど、それでも上腕三頭筋長頭は肘関節の伸展に加えて肩関節の伸展の働きがあるのでプッシュの動作とロウの動作の両方で使われる。

10/25/2017

夜食べると太るのか

この手の話は、食べる時間帯や食事回数は関係なく、結局はカロリー収支の問題で決着がついているという認識だったけど、Examine.coの記事を読んでみて、意外と奥が深いな・・・と思ったので、夜く食べると太るのかという問題を扱った研究を調べてみた。


★研究の種類と問題点
研究は大きく分けて、観察研究と介入研究に分けられる。詳しくは、Wikipediaを参考に。

a) 観察研究
たくさんの人のデータを集めて、どんな生活習慣の人がどんな病気にかかりやすかったりするかを調べる。

{観察研究の問題点]
単なる偶然で相関関係が出来ている可能性、因果関係があるとして原因と結果はどちらなのか、研究者側の調査対象集団を選ぶバイアス、被験者の記憶や申告のバイアス(どんなものをどれくらい食べたかの自己申告は非常に不正確)、交絡因子の存在、etc。


b) 介入研究
被験者を集めて調べたい要因のみ変化させ、後は条件を揃えて、その要因の変化がどのように結果に影響を及ぼすか調べる。

[介入研究の問題点]
費用面や倫理面の制約があり、被験者数が少なく期間が短い。



★実際の研究
a) 観察研究
観察研究は探せばいくらでも出てくるだろうから割愛。よく一般メディアで「夜食べると太る」説の根拠として持ち出されるのがこの種類の研究。この手の研究はたくさんあると思うけど、個人的にはあまり興味が無いのでアブストラクト以外は読んでいない。

例えば以下のような背景で、観察研究では「夜食べる人は太りやすい」という結果が出ている可能性がある。
- 夜食べると太りやすいというのが世界共通の認識なので、体型への意識が高い人は夜にあまり食べないようにしていて、そういった人はカロリー摂取に気を使っているのでトータルの摂取カロリーが抑えられていて太りにくい。
- 多くの人は朝はゆっくり食べる時間がない。朝しっかり食べて、夜は食べないルールでやると、朝はしっかり食べようとしても、時間の問題でたくさん食べられない。結果としてトータルの摂取カロリーが抑えられて太りにくい。
- 多くの人は夜は比較的ゆっくり食べる時間があるので、たくさん食べてしまう。また夜は朝に比べて疲れているので、自己抑制が効かなくなり暴食しやすい。結果としてトータルの摂取カロリーが増えて太る。
- 夜の食事ではお酒を楽しむことも多い。お酒には食欲増進効果があるし、お酒自体にもカロリーがあるのでトータルの摂取カロリーが多くなる。


b) 介入研究
食べる時間帯の違いによる体重への影響を調べた介入研究には、主に2種類ある。実験所に閉じ込めて完全に食事管理する方法と、食事内容を細かく指示して自己管理する方法。合わせて5つの研究が見つかった。いずれも摂取カロリーを維持カロリー以下にしたダイエットの研究。

(b-1) 実験所に閉じ込めて完全に食事管理
エビデンスとしての質が高いのはこのやり方。この方法の研究は2つ見つかった(もし他に同様の研究があれば教えてもらえると有り難いです)。

ただこの種類の研究でも、どちらのグループに痩せやすい人が多くいるか、体組成の測定精度はどうなのか、被験者数の少なさや期間の短さといった問題点がある。

(1)Weight loss is greater with consumption of large morning meals and fat-free mass is preserved with large evening meals in women on a controlled weight reduction regimen.
http://jn.nutrition.org/content/127/1/75.long
1997年の論文
被験者:10人の肥満の女性
実験環境:実験室に閉じ込め。食事はカロリー計算されたものが提供され、それのみを食べる。
実験期間:3週間は体重維持でその後12週間のダイエット実験。
 最初の6週間 -> グループAは一日の総摂取カロリーの70%を午前に摂取、グループBは一日の総摂取カロリーの70%を午後に摂取。
 次の6週間 -> グループAは一日の総摂取カロリーの70%を午後に摂取、グループBは一日の総摂取カロリーの70%を午前に摂取。
食事のカロリー配分:
 午前パターン -> 8時から8時半に35%、11時半から12時に35%、16時半から17時に15%、20時から20時半に15%
 午後パターン -> 8時から8時半に15%、11時半から12時に15%、16時半から17時に35%、20時から20時半に35%
摂取カロリー:1日約1900kcal
マクロ栄養素バランス:炭水化物59.7%、タンパク質18.1%、脂質22.3%
運動:研究者側の指導のもとで、ウォーキング、有酸素運動、ウェイトトレーニングを実施。
体組成測定方法:生体インピーダンス式。
安静時代謝:間接熱量計で測定

[結果]
グループAとグループBを合わせた数字を見ると、午前パターンの方が体重は減った。午前パターンが-3.90kg、午後パターンが-3.27kg。ただ午前パターンは除脂肪体重の減少が午後パターンよりも大きく、体脂肪の減少量は午後パターンよりも小さい。午前パターンは除脂肪体重が大きく減り、体脂肪はあまり減らない質の悪いダイエットという結果になった。午前午後の食事パターンで安静時代謝に有意差無し。

私のコメント:
- 夜から翌朝の食事まで12時間空くので、その前の夕食でたくさん食べることで空腹時の筋肉の分解が抑えられ、午後パターンの方が除脂肪体重の減少が小さくなった可能性がある。
- 体重と体組成の測定タイミングが朝食前なので、午後パターンは午前パターンに比べてグリコーゲンと水分が多い状態で測定し、それが除脂肪体重と体重の変化の差に影響を与えている可能性がある。体重と除脂肪体重の推移(fig1)を見ると、両グループとも午前パターン開始後の2週目にガクンと落ちている。
- 少しの差だがグループBの方が体重が重く体脂肪率が高く安静時代謝が高い。つまりグループBの方がダイエットを始めると楽に痩せられると考えられる。またダイエットは続けるにつれ痩せにくくなるので、最初の6週間の方が次の6週間よりも楽に痩せられると考えられる。痩せやすいグループBが、痩せやすい最初の6週間に午後パターンになり、午後パターンはここで体脂肪減少の数字を稼いだ可能性がある(table4の赤丸がグループB)。次の6週間(Period2)ではグループBが午前パターンになり、午前パターンの方が体脂肪量がより多く減った。


(2)Influence of meal time on salivary circadian cortisol rhythms and weight loss in obese women.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17483007
http://www.nutritionjrnl.com/article/S0899-9007(07)00028-7/fulltext
2007年の論文
被験者:12人の肥満の女性
実験環境:病院に閉じ込め。食事はカロリー計算されたものが提供され、それのみを食べる。3回の実験の間のウォッシュアウト期間は家に帰って自由に食事。
実験期間:18日×3回 ウォッシュアウト5日×2回 
食事パターン(同じ被験者群を使って3回実験):
 ステージ1 -> 9時~20時の間に5回に分散させて食事
 ステージ2 -> 9時~11時の間にすべての食事を済ませる
 ステージ3 -> 18時~20時の間にすべての食事を済ませる
摂取カロリー:1-3日は2500kcal/dayを提供(食べたのは平均2100kcalくらい)、3-18日は900-1000kcal/day
マクロ栄養素バランス:炭水化物55%、タンパク質15%、脂質30%
運動:特になし
体組成測定方法:生体インピーダンス式
安静時代謝:間接熱量計で測定

[結果]
体重、体脂肪量、ウェスト、ヒップ、安静時代謝は、ステージ1,2,3で変化に差は無し。ウォッシュアウト中に体重が全部戻っているので、ステージ2,3もスタート時は同じ条件になっている。
コルチゾールの概日リズムも測定していて、食事時間によって変化なし。

私のコメント:
かなり極端な食事パターンだけど、食事を完全に管理すれば、いつ食べても結局はカロリー収支の問題という結果に。

 
(b-2) 食事内容を細かく指示して自己管理
この方法の研究は、指示された食事内容を守れていない可能性が高い。あと実験室に閉じ込めるのと同じく、グループに痩せやすい人が多くいるか、体組成の測定精度はどうなのかという問題点もある。

(3)High caloric intake at breakfast vs. dinner differentially influences weight loss of overweight and obese women.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23512957
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.20460/pdf
2013年の論文
被験者:74人の肥満の女性
実験期間:12週間
食事パターン
朝食は6時から9時の間、昼食は12時から15時の間、夕食は18時から21時の間
 朝食多いグループ(38人) -> 朝食700kcal、昼食500kcal、夕食200kcal
 夕食多いグループ(36人) -> 朝食200kcal、昼食500kcal、夕食700kcal
摂取カロリー:1400kcal/day 栄養士の指導の下、自己管理。
マクロ栄養素バランス:炭水化物32%、タンパク質41%、脂質27%
運動:特になし

[結果]
12週間で朝食多いグループは体重8.7kg減少、夕食多いグループは3.6kg減少。ウェストサイズの減少も朝食多いグループの方が大きい。

私のコメント:
消費カロリーが2000kcalだとすると、カロリー赤字が600kcal/day。12週間で43200kcal。体重5,6kgは減るはず。さらに夕食多いグループは8週間以降で体重が増えている。体重80kgで消費カロリーが1400kcalを下回るとは考えにくい。指導された食事内容を守れていないと考えられる。

この研究では、「食事指導を受けた肥満の女性が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、朝にカロリーを集中して食べた方が夜に集中して食べるよりも痩せやすかった」という結果になっている。


(4)Beneficial effect of high energy intake at lunch rather than dinner on
weight loss in healthy obese women in a weight-loss program:
https://www.researchgate.net/publication/307549097_Beneficial_effect_of_high_energy_intake_at_lunch_rather_than_dinner_on_weight_loss_in_healthy_obese_women_in_a_weight-loss_program_A_randomized_clinical_trial
2016年の論文
被験者:69人の肥満の女性
実験期間:12週間
食事のカロリー配分:
 昼食メイン -> 朝食15%、軽食15%、昼食50%、夕食20%
 夕食メイン -> 朝食15%、軽食15%、昼食20%、夕食50%
摂取カロリー:1900-2000kcal(自己申告)。栄養士の指導の下、自己管理。
マクロ栄養素バランス:炭水化物60%、タンパク質17%、脂質23%
運動:ほどほどの運動(主に早歩き)を60分週5日行うよう指導

[結果]
昼食メイングループの方が体重減少が大きかった。昼食メイングループが体重5.35kg減少、夕食メイングループが体重4.35kg減少。

私のコメント:
この研究では、「食事指導を受けた肥満の女性が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、昼にカロリーを集中して食べた方が夜に集中して食べるよりも痩せやすかった」という結果になっている。


(5)Greater Weight Loss and Hormonal Changes After 6 Months Diet With Carbohydrates Eaten Mostly at Dinner
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1038/oby.2011.48/full
2011年の論文
以下の記事で取り上げた研究。

参考記事:ダイエットでは夜に炭水化物を集中的に食べよう

夜に炭水化物を多く食べるグループの方が体重がより減少し、除脂肪体重の減少も抑えられたという結果だが、スタート時点の体重と体脂肪率に差があって、夜に炭水化物を多く食べるグループの方が体重が重く体脂肪率が高く、痩せるのが容易だった可能性がある。また指示された摂取カロリーからすると体重減少が緩やかなので、食事内容を守れていないと考えられる。

この研究では、「食事指導を受けた肥満の男女が自己管理で食事を用意するダイエットを行ったら、朝昼晩バランス良く食べるよりも夜に炭水化物を集中して食べた方が痩せやすかった」という結果になっている。



★研究結果のまとめ
被験者を実験所に閉じ込め、研究者側が食事を用意し、摂取カロリーを厳格にコントロールした研究(1)(2)では、
(1)午前に多く食べたほうが体重減少は大きかったが、午後に多く食べたほうが体脂肪量の減少は大きく除脂肪体重の減少は小さかった。
(2)朝に集中して食べても夜に集中して食べても一日に分散させて食べても、体重や体脂肪量の変化に差はなかった。

栄養士の指導のもと、自己管理で食事を用意する研究(3)(4)(5)では、結果がまちまちで、
(3)朝にたくさん食べたほうが体重が減る。
(4)昼にたくさん食べたほうが体重が減る。
(5)夜にたくさん食べたほうが体重が減る。

摂取カロリーを厳格にコントロールした研究でも、測定タイミングや測定精度の問題、グループ分けの問題があるので、断言はなかなか出来ないのだけど、生理学的には摂取カロリーが同じならたぶんいつ食べようと変わらなくて、体重変動はカロリー収支の問題だろう。

ただダイエットの質についていえば、(1)と(5)の研究から、ダイエットでは夜に多く食べたほうが除脂肪体重の減少を抑えられ、質の良いダイエットを行える可能性がある。

留意点としては、体組成の測定は生体インピーダンス式で行われてて、精度はあまり良くないこと。ただ生体インピーダンス式でも、測定条件を一定にすれば相対的な変化は比較的正確に測定できると思われる。



★夜食べると太るのか
おそらく生理学的には、維持カロリー以上食べているなら結局はカロリー収支の問題で、どの時間帯に食べようと体重と体組成の変化に違いは出ない。夕食は寝る3時間前までに済ませないと脂肪として溜め込む、といった話は間違いだろう。

参考記事:栄養素の貯蔵と引き出し

ただ、ストレスの強い状況、例えば毎日午前2時に食べてその後寝るなど通常の生活サイクルから大きくズレた生活や、昼勤と夜勤が入り乱れるシフト勤務などでは、内分泌系の乱れなどにより消費カロリーが減少したり、維持カロリーの食事でも体脂肪が増えて除脂肪体重が減るといったことも考えられる。20時や21時に夕食を食べて0時までに寝るといった程度なら問題ないだろう。

カロリー不足の状況(ダイエット)だと、夕食に多く食べたほうが除脂肪体重を維持しやすいかもしれない。通常の生活サイクルだと夕食から翌朝の朝食までの時間間隔が大きく、肝グリコーゲンが枯渇し糖新生が増えることで筋肉が分解されやすくなる。夕食で炭水化物とタンパク質を多めに食べると良いだろう。また除脂肪体重の維持を目指す場合は、タンパク質摂取量を確保することも重要。

参考記事:タンパク質摂取量の目安

夜しっかり食べると実生活でどうなりやすいかは、人による。夜ダラダラ食べる傾向がある、夜疲れていて暴飲暴食する傾向がある人は、夜に何の制約もなく食べると摂取カロリーが多くなって太るだろう。その場合は、夕食の量をあらかじめ決めてそれ以外は食べない、夕食後の夜食は食べない、お菓子やインスタント食品などすぐ食べられる余計な食べ物を家に置かないなどのルールを設けるのが良いと思われる。

セルフコントロールが出来る人は、自分の体質と生活スタイルに合ったやり方でやれば良いだろう。



★夜食べると概日リズムが狂う説
夜食べることのデメリットとして、概日リズムが狂うという説があって、夜食症候群という症状が挙げられることがある。

夜食症候群の基準は、一日の総摂取カロリーの25%以上を夕食後の夜食で食べる and/or 週に2回以上夜中に起き出して食べる、とのこと。

少ししか調べていないけど、夜食症候群の人は、概日リズムが狂って夜食をするのか、夜食で概日リズムが狂うのか、ストレスや睡眠不足などが原因で概日リズムの狂いと夜食行動が起きるのか、因果関係がよくわからない。午前2時とかに食べ続ければ狂うだろうけど、そもそもその時間に活動している時点で概日リズムが狂っているだろう。食事パターンよりも環境の明暗のサイクルのほうが概日リズムへの影響が強いと考えられ、強い光を照射する治療で夜食症候群が治るケースもあるみたいなので、その場合は概日リズムが先に狂ってると考えられる。

個人差もあるだろうから夜しっかり食べると体調が悪くなる場合は、当然止めたほうが良い。夜食べないのが辛いのに、俗説を信じて無理に夜食べないようにするのは無駄な努力だし、余計なストレスが増える。



★今後の研究と議論
現時点では、食事を厳格にコントロールした研究は、食べる時間帯によって体重変動に影響が出ることを示していない。摂取したカロリーは魔法のように消えたり増えたりはしない。もし摂取カロリーが同じでも痩せたり太ったりするのなら、食べる時間帯によって消費カロリーが増減したり、カロリーの振り分けが変化したりする必要がある。従って、食べる時間帯により体重や体組成が変わることを証明したいのなら、例えば以下のような研究を行うと良いだろう。

ⅰ) 食べる時間帯で人間の24時間トータルの消費カロリーが変化することを示す。例えば、実験室に閉じ込めて24時間の呼気と尿を採取して消費カロリーを算出する。食事パターンを変えることでこの24時間の消費カロリーが変化するか調べる。

ⅱ) 食べる時間帯で人間のカロリーの振り分け(摂取したカロリーが除脂肪体重にいくか体脂肪にいくか)が変化することを示す。大勢の被験者を実験室に閉じ込めて食事を完全に管理した実験を数ヶ月間といった長期間行い、体組成変化が大きく出るようにして、精度の高い方法で体組成を測定する。また測定前には食事パターンを揃えて、測定時点でのグリコーゲンと水分の違いの影響が出ないようにする。

このような研究を何度も行い質の高いエビデンスを積み上げることが必要だろう。観察研究や食事を自己管理の介入研究やマウス実験はほとんど参考にならない。

9/29/2017

筋肥大トレの推奨ボリューム2

金(キン)曜日の29(ニク)日は「筋肉を考える日」らしいので、筋肉のことを考えてみましょう。


以前の記事(筋肥大トレの推奨ボリューム)のアップデート的な記事になります。筋肥大を目的としたトレーニングの場合、どのくらいのトレーニングボリュームが適切なのか。


★トレーニング未経験者・初心者の推奨ボリューム
今回見ていく研究はSchoenfeld他の研究で、週間のセット数と筋肥大の関係を調べた2016年のシステマティックレビュー・メタアナリシス研究になる。トレーニングボリュームと筋肥大の関係について、現状の研究結果からは何がわかるのか。

(1)Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis
https://www.researchgate.net/publication/305455324_Dose-response_relationship_between_weekly_resistance_training_volume_and_increases_in_muscle_mass_A_systematic_review_and_meta-analysis

分析対象となった研究の数は15で、そのうち被験者がトレーニング歴有りとなっている研究の数は3つ。大部分の研究の被験者がトレーニング歴なしで、年齢性別も老若男女さまざま。

調べているのは、「部位あたりの週間のトータルのセット数」と筋肥大の関係。

結果への影響の大きい外れ値の研究(被験者はトレーニング歴あり)を除くと、週に5セット以下よりも週に5-9セットの方が筋肥大効果は高いが、週に10セット以上と週に5-9セットはほぼ同等という分析結果となっている(下表の赤線で囲った部分)。


この分析結果では大部分がトレーニング歴なしの被験者になっている。トレーニング歴なしの人が筋肥大を目指してトレーニングする場合は、部位あたり週に5-9セットのトレーニングボリュームが適切だということになる。部位あたり週に10セット以上やっても筋肥大の観点ではあまり意味がないかもしれない。

また週に5セット以下でもそれなりに効果が得られるようだ。時間や体力の無い初心者の人は各部位2セットを週に2回程度でも良いだろう。

トレーニング歴ありの人でも、鍛え込まれていない部位だと週に10セット以上やってもあまり意味がないかもしれない。例えば下半身は強いが上半身はあまり鍛えていないアスリートが、上半身も鍛えようとする場合がこのケースに相当する。



★セット数とレップ数
1セット8-12レップを週に5-9セット行うとすると、週に40-108レップ。部位あたり週2回トレーニングすると、一回のトレーニングで部位あたり20-54レップ。

以前の記事で紹介した研究では、一回あたり合計30-60レップのトレーニングボリュームが筋肥大を最適化するようだという結論だった。この研究でも主な対象は未経験者・初心者で、今回の研究とレップ数換算ではだいたい数字が一致する。トレーニング歴の無い人や始めたばかりの初心者は、一回のトレーニングで部位あたり2-5セット、合計レップ数20-60程度のボリュームで、これを週に2回程度行うのが筋肥大目的のトレーニングとして望ましいと考えられる。



★トレーニング歴のある人を対象とした研究
それではトレーニング歴のある人にはどの程度のトレーニングボリュームが良いのだろうか。予め断っておくと、研究の数が非常に少ないのでたいしたことはわからない。

今回のメタアナリシス研究で分析対象となったトレーニング歴ありの被験者の研究は3つ。それぞれ見ていくと、

(2)The Effect of Weight Training Volume on Hormonal Output and Muscular Size and Function
https://www.researchgate.net/publication/232177076_The_Effect_of_Weight_Training_Volume_on_Hormonal_Output_and_Muscular_Size_and_Function
被験者は20代前半の若い男性。実験開始前の平均値はスクワット1RMが約130kg、ベンチプレス1RMが約90kg。筋肥大の測定部位は、大腿直筋と上腕三頭筋長頭。週4回トレーニング(下表Table1参照)。1種目あたり1/2/4セット。測定部位についての週あたりの種目数は、大腿四頭筋が3種目(スクワット、レッグプレス、レッグエクステンション)、上腕三頭筋が6種目(ベンチプレス、インクラインベンチプレス、デクラインベンチプレス、クロースグリップベンチプレス、トライセップスプッシュダウン、トライセップスエクステンション)。7-12RM限界まで。

筋肥大については大腿直筋も上腕三頭筋長頭もグループ間では有意差なしという結果。大腿直筋断面積の変化は、1種目4セット・週に12セットの高ボリュームグループが+12.3%、1種目2セットグループが+4.6%、1種目1セットグループが+6.8%となった。有意差無しなのは被験者数が少ないためではないだろうか。このボリューム差なら、高ボリュームのほうが筋肥大効果が高い気がする。ただストレングスの変化(スクワット1RM)は差がない。上腕三頭筋長頭については測定機器の能力の問題か(筋肉の厚さが40mm程度で変化量が1mmか2mm、コンマ以下は測定できない模様)、上腕三頭筋の鍛え込みレベルがそれほど高くなくて1種目1セット・週に6セットの低ボリュームですでに刺激が飽和しているのか。もしくはベンチプレス系では短頭に負荷がかかりやすく測定対象となっている長頭への負荷がそれほど高くないためか。被験者のトレーニングレベルや1種目1/2/4セットというボリュームの比較は良い感じなのに、種目の選択と測定機器の性能がいまいちでなんだか惜しい研究。


(3)Dose-response of 1, 3, and 5 sets of resistance exercise on strength, local muscular endurance, and hypertrophy.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25546444
被験者は趣味でトレーニングしている若い男性。筋肥大の測定部位は、肘の屈筋と伸筋。部位あたり週に30セット、18セット、6セット(1種目あたり5/3/1セット・各部位2種目・週三日)。例えば肘の伸筋の種目はベンチプレスとトライセップスエクステンションで、それぞれ5セットを週三日やると肘の伸筋の週間セット数は30になる。8-12RM限界まで。30セットが最も良い結果。


(4)Three Sets of Weight Training Superior to 1 Set With Equal Intensity for Eliciting Strength
https://www.researchgate.net/publication/11043617_Three_Sets_of_Weight_Training_Superior_to_1_Set_With_Equal_Intensity_for_Eliciting_Strength
被験者は趣味でトレーニングしている若い男性。実験開始前のベンチプレス1RMは65kgくらい。メイン種目はベンチプレスとレッグプレスで3セットor1セット、これを週に3日。1セットグループは時間が余るので、その間にラットプルダウンやクランチやシーテッドロウなど他の種目を1セットずつ行った。3セットグループも時間が許せは同様の種目を行った。筋肥大については除脂肪体重の変化のみ測定で、グループ間で有意差はなし。研究の主目的であるストレングスの変化については、3セットグループの方が大きく伸びた。



★トレーニング歴のある人の推奨ボリューム
中級者以上は、部位あたり週に10セット以上は行った方が良いと思われる。コンパウンド種目だと対象の筋肉に負荷がどれくらいかかるか種目によっても人によっても異なり、部位あたりのセット数のカウントは単純ではないと思うけど(例えばロウ・プル系は上腕二頭筋のボリュームにカウントするか、スクワットはハムストリングのボリュームにカウントするか、デッドリフトは大腿四頭筋のボリュームにカウントするか)、部位あたり週に10-30セットくらいやるのが良いのではないだろうか。もちろん疲労を回復できる範囲で行うのが基本で、ハード過ぎると回復が追いつかず、結果が悪くなると考えられる。

一般論としては、鍛えられている筋肉ほどさらなる肥大には大きなトレーニングボリュームが必要になる。

どのくらいのボリュームが最適なのか、どのくらいやると逆効果なのか。研究の数が少ないし、トレーニングに対する反応には個人差(遺伝子や現状の筋肉レベルや栄養や疲労やストレスや睡眠や年齢など)が非常に大きいと考えられるので、反応を見ながら調整していくしかないだろう。

例えば下の研究では、トレーニング経験の無い被験者に、ニーエクステンション、レッグプレス、スクワットを各種目3セット、8-12RM限界まで。これを週に3日。つまり大腿四頭筋のトレーニングを週27セット。大腿四頭筋の筋肥大(外側広筋から採取した筋繊維の断面積の増加)が起こらなかった人もいれば、大きく筋肥大した人もいた。このようにトレーニングに対してどう反応するかは、個人差が非常に大きい。

(5)Cluster analysis tests the importance of myogenic gene expression during myofiber hypertrophy in humans
http://jap.physiology.org/content/102/6/2232.long


若い→20-35歳
高齢→60-75歳

筋肥大の程度で3つのクラスターに分けた。クラスター内の内訳は以下の通り。
XTR) 筋肥大反応が非常に良いクラスター:若い女性3人、若い男性9人、高齢女性3人、高齢男性2人
MOD) 筋肥大反応がほどほどクラスター:若い女性8人、若い男性11人、高齢女性7人、高齢男性6人
NON) 筋肥大反応が見られないクラスター:若い女性5人、若い男性1人、高齢女性5人、高齢男性6人

若い男性の未経験者でトレーニングしても筋肥大が起こらないのは少数だと思われる。栄養と睡眠とストレス管理に気をつけて、適度なボリュームのトレーニングを行えば、程度の差はあれほとんどの若い男性で筋肥大は起こるだろう。一方、若い女性や高齢男女では筋肥大がなかなか起きないケースも結構あるようだ(この研究のトレーニング内容がハード過ぎたのかもしれないが)。

9/17/2017

フレキシブルなトレーニングプログラムの組み立て方

時間や体力や使える器具の制約があるなかで、なるべく効率的に良い結果を出すにはどのようにトレーニングプログラムを組み立てていけば良いか。

ボディメイク目的のトレーニングでも、ピリオダイゼーションを用いて色々なレップレンジでトレーニングした方が効果が高いと考えられる。制約を利用しつつ、このレップレンジの変化を組み込むことを考えてみる。

参考記事:筋肥大トレのピリオダイゼーション


★主なウェイトトレーニングの種類とその特徴
ここでのトレーニングボリュームは、セット数×レップ数×重量とする。

・ストレングストレーニング
- 高重量・低レップでトレーニングボリュームは少なくなる。
- 85%1RM以上、5レップ以下。
- セット数が同じなら筋肥大トレーニングより回復が早い(2)。
- その日のトレーニングの最初にやった方がストレングスの向上に効果的(疲れていない状態でやった方が効果的)。有酸素運動も行うなら、有酸素運動よりも先にストレングストレーニングを行ったほうが効果的だし(4)、ストレングストレーニングのみでも最初の方にやった種目のストレングスが伸びやすい(7)。
- フレッシュな状態で集中力を高め、大きな力を発揮するのを意識する。

・筋肥大トレーニング
- 中重量・中レップでトレーニングボリュームは多くなる。
- 80%1RM以下、6-15レップ程度。
- ボリュームが多く回復に時間かかるので、次の同一部位トレーニング日まで間隔を空ける必要がある(回復期間は概ねボリューム依存)。
- トレーニング後半の種目でもそれまで使っていなかった部位であれば、前半に行った場合と同等に筋肥大しそう(7)。有酸素運動を先にやっても後にやっても筋肥大効果は変わらないようだし(4)、ストレングスと異なり疲労の影響は小さいと考えられる。
- ボリュームをしっかりこなすのを意識する。

・パワートレーニング

- 中高重量・低レップでトレーニングボリュームは少ない。
- 75%-90%1RM程度、5レップ以下。
- 各セット限界までやらない。限界まで2レップ以上残して止める。
- コンセントリックを全速力で挙上。瞬間的に大きな力を発揮することを目的としたトレーニング。
- セット間インターバルは2-5分と長めにとってしっかり回復する。
- 余裕のある重量とレップ数では、ゆっくり挙げるよりも全速力で挙げたほうがストレングス向上に効果的(9)。
- 回復が早いのでトレーニング頻度を増やすことができ、長期的な視点でのトレーニングボリュームの積み上げが期待できる(5)。
- 1,2日後のトレーニングでのパフォーマンスを上げやすい(8)。


★組み合わせの実例(曜日固定)
いくつか研究があるのがDUP(Daily Undulating Periodization)。一週間のうちでトレーニング日ごとにトレーニングの種類を変える。

例えば、BIG3中心に全身を週三日で、月曜に筋肥大トレーニング、水曜にパワートレーニング、金曜にストレングストレーニング。

この順序だと、回復に時間のかかる筋肥大トレーニングからストレングストレーニングまで96時間(中三日)、ストレングストレーニングから筋肥大トレーニングまで72時間(中二日)となり、両方のトレーニングを良いコンディションで行える。(5)の研究ではこの順序と、筋肥大→ストレングス→パワーの順序とを比べていて、筋肥大→パワー→ストレングスの方が良い結果を出せている。

これはパワーリフティング寄りのトレーニングプログラムで、アイソレート種目も多く取り入れたボディビル寄りのプログラムだと、例えば上半身週二回、下半身週二回に分割して、月曜に下半身ストレングストレーニング、火曜に上半身ストレングストレーニング、木曜に下半身筋肥大トレーニング、金曜に上半身筋肥大トレーニング、疲労が溜まっている時はパワートレーニングを挟むというトレーニングプログラムも考えられる。


★フレキシブルなトレーニングの組み立て例
・器具の空き状況
ジムが混んでいてBIG3の器具が空いてない場合は、空くまで待つのも選択肢だけど時間が無駄だと考えるなら、その日を筋肥大トレーニングの日にして、空いてる器具から(優先的に鍛えたい部位があればそこから)中重量・中レップの高ボリュームトレーニングをどんどん行っていく。器具が空いていてBIG3が最初に出来る場合は、その日をストレングストレーニングの日にして、ストレングスを伸ばしたい種目を最初に行う。

・次のトレーニング予定日までの間隔
次のトレーニング日まで間隔が空く場合は、ボリュームを増やしたり、補助種目もしっかりやったり、各セットの追い込み度を上げる。
次のトレーニング日までの間隔が短い場合は、ボリュームを減らしたり、パワートレーニングを行ったりする。

・トレーニング時間があまり取れない場合
種目を絞った短時間集中のストレングストレーニング、もしくは調整目的のパワートレーニングを行う。
リバースピラミッドも良いだろう(1セット目低レップ、2セット目中レップ、3セット目高レップみたいな感じ)。

・その日のコンディション
疲労が溜まっている場合は、調整目的のパワートレーニング。
3週ハード1週軽めといった感じでサイクルを決めて、軽めの週に強度(%1RM)の低いパワートレーニングを組み込むのも良いだろう。


★フレキシブルなトレーニングプログラムのメリット
フレキシブルなトレーニングプログラムは、トレーニングを継続しやすくする(6)。通常の研究では実験期間は2,3ヶ月程度で、あまり現実的ではない方法であっても半強制的に続けさせることが出来るだろうけど、実際の運用では自分の意思で年単位でトレーニングを続ける必要がある。トレーニングの継続のしやすさは非常に重要だと考えられる。これは栄養管理についても同じことが言える。


★最後に
この辺の話は研究の数が少なく、またトレーニングメニューや各々の体力といった個人差の影響が大きいだろう。従って研究結果をもとに確信をもってトレーニングプログラムを組み立てられるわけではないのだけど、現状の研究結果とトレーニングの一般論を組み合わせると上で書いたような感じになると思う。重要なのは研究結果を鵜呑みにしてそのまま自分のトレーニングに当てはめるのではなくて、自分がどうトレーニング出来ているかを意識することだろう。ストレングストレーニングだったら集中して重い重量を持ち上げられているか。筋肥大トレーニングだったら筋肉にしっかり負荷をかけつつボリュームをこなせているか。疲労が溜まっていてトレーニングの質が落ちていないか。このようなことを意識しつつフレキシブルにトレーニングを行っていくのが良い思う。



参考文献:
(1)Dissociated time course between peak torque and total work recovery following bench press training in resistance trained men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28595855
ベンチプレス8セットを各セット限界までを2分インターバルで実施。96時間後では筋力が回復しても何レップもエクササイズをこなす能力は回復していない。ボリュームと追い込み度が高すぎると4日後でもトレーニングがしっかり行えないようだ。

(2)Comparison of the recovery response from high-intensity and high-volume resistance exercise in trained men.
https://www.researchgate.net/publication/315684978_Comparison_of_the_Recovery_Response_from_High_Intensity_and_High_Volume_Resistance_Exercise_in_Trained_Men
中強度中レップのボリューム多い筋肥大トレーニングの方が、高強度低レップのストレングストレーニングよりも回復が遅い。

(3)Neuromuscular Adaptations to Combined Strength and Endurance Training: Order and Time-of-Day
https://www.researchgate.net/publication/312289627_Neuromuscular_Adaptations_to_Combined_Strength_and_Endurance_Training_Order_and_Time-of-Day

(4)Effects of morning versus evening combined strength and endurance training on physical performance, muscle hypertrophy, and serum hormone concentrations.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27863207
有酸素運動とストレングストレーニングの順序を変えて効果を比較。同時に朝にトレーニングするのと夜にトレーニングするのとではどちらが効果が高いか比較。ストレングストレーニングを先にやったほうがストレングスの伸びは高いが、筋肥大効果は有酸素運動が先でもあまり変わらず。ちなみに朝よりも夜にトレーニングした方がストレングスと筋肥大の伸びが大きい。

(5)Modified Daily Undulating Periodization Model Produces Greater Performance Than a Traditional Configuration in Powerlifters.
https://www.researchgate.net/publication/281066701_Modified_Daily_Undulating_Periodization_Model_Produces_Greater_Performance_than_A_Traditional_Configuration_in_Powerlifters
一週間のうちで3日トレーニングし、それぞれのトレーニング日でトレーニング内容を変える場合、「筋肥大トレ/休み/ストレングストレ/休み/パワートレ」よりも、「筋肥大トレ/休み/パワートレ/休み/ストレングストレ」の順の方がトレーニングボリュームを増やせて効果も高いようだ。

(6)Comparison of Powerlifting Performance in Trained Males Using Traditional and Flexible Daily Undulating Periodization
https://www.researchgate.net/publication/303635228_Comparison_of_Powerlifting_Performance_in_Trained_Males_Using_Traditional_and_Flexible_Daily_Undulating_PeriodizationDUP
DUPでは自分でトレーニング内容を選択出来たほうがトレーニングの継続率が大幅に高い。

(7)Exercise order in resistance training.
https://www.researchgate.net/publication/221793787_Exercise_Order_in_Resistance_Training
種目の順序を変えて、ストレングスと筋肥大を比較した研究がレビューされている。ストレングスは最初の方にやった種目が伸びやすい。筋肥大はややこしくて、ベンチプレス→トライセップスエクステンションの順よりもトライセップスエクステンション→ベンチプレスの順の方が上腕三頭筋がより筋肥大したが、ラットプルダウン→アームカールの順とアームカール→ラットプルダウンの順では上腕二頭筋の筋肥大は同等。ラットプルダウンでは上腕二頭筋はあまり疲労しないから? でも上腕三頭筋もベンチプレスで疲労したとしてもトータルのボリュームは順序関係ないから同等に筋肥大しそうだけど・・・上腕三頭筋の測定箇所がベンチプレスではあまり使われずトライセップスエクステンションで使われる部分だったとか?

(8)Delayed effects of a low volume, power-type resistance exercise session on explosive performance.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28291764
パワートレーニングを行うと、24時間後、48時間後のパワー種目のパフォーマンスが高まる。

(9)Maximal intended velocity training induces greater gains in bench press performance than deliberately slower half-velocity training.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24734902
全速力で挙上したほうがストレングスの伸びが高い。

8/28/2017

ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると効果アップ


(1)Effects of mental training on muscular force, hormonal and physiological changes in kickboxers
https://www.researchgate.net/publication/304781460_Effects_of_mental_training_on_muscular_force_hormonal_and_physiological_changes_in_kickboxers


ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると、ストレングストレーニングの効果が高まるという研究。


★実験方法
・被験者:53人の若い男性で全員ハイレベルのキックボクサー。平均値は、年齢24.2歳、身長175cm、体重70.4kg。レジスタンストレーニングの経験あり。メンタルトレーニング歴なし。

・被験者は3グループに分けられた。
1) PMG:フィジカルトレーニングとメンタルトレーニングを実施
2) PG:フィジカルトレーニングのみ実施
3) CG:コントロールグループ。フィジカルトレーニングもメンタルトレーニングも無し。

・トレーニング期間:12週間

・トレーニング頻度:週3回

・フィジカルトレーニング種目:ベンチプレス、ハーフスクワット(実質的にはパラレルスクワット)、カウンタームーブメントジャンプ(腕を振らない垂直跳び)、メディシンボール投げ

・メンタルトレーニング
a) イメージトレーニング
目を閉じて、一人称視点でフィジカルトレーニングを実施することをイメージする。実際の動作を想像し、動作に使う筋肉を全力で収縮させることをイメージする(実際には筋肉を収縮させない)。実験ではフィジカルトレーニングを全種目終えた後に、30分かけてフィジカルトレーニングと同じ種目を同じセット数とレップ数でイメージトレーニングを実施。
b) モチベーションを高めるセルフトーク
トレーニング中やその前後に感じたネガティブな思いを書き出す→それをポジティブでモチベーションを高める内容に変更し、トレーニングの実施中に自分に語りかける。例えばベンチプレス中に、「俺はもっと重いウェイトを持ち上げられるッ!!!」と自分に向けて鼓舞する。フィジカルトレーニングとメンタルトレーニングの両方でセルフトークを実施。


★実験結果
・運動パフォーマンス(PMGがメンタル+フィジカル、PGがフィジカルトレーニングのみ)
ベンチプレス1RM:PMG+26.5% / PG+15.7%
ハーフスクワット1RM:PMG+27.2% / PG+16.3%
カウンタームーブメントジャンプ:PMG+16.2% / PG+8.4%
メディシンボール投げ:PMG+27.9% / PG+14.2%

運動パフォーマンスの向上は、ストレングストレーニングでもプライオメトリックトレーニングでも、メンタルトレーニングを加えたグループの方が良い結果を出した。またメンタルトレーニングを加えたグループは、テストステロン/コルチゾール比の上昇、心拍数の低下、血圧の低下が観察され、ストレスレベルが低く、アナボリックに適した身体状況であることが示唆された。






★コメント
ストレングストレーニングにメンタルトレーニングを加えると、ストレングストレーニングの効果がかなり高まるようだ。メンタルトレーニングにこれほど効果があるとは、個人的には驚きだった。メンタルトレーニングが効果を発揮する理由についてはいくつか考えられ、

a) 動作のイメージを繰り返し描くことでフォームが良くなり、より重い重量を挙上できるようになる。これはストレングストレーニングだけでなく、多くのスポーツで有効。
b) セルフトークで気合が入ったり、イメージトレーニングで筋肉への負荷のかけ方が上手くなったりして、トレーニングの質が高まり、より筋肥大する。(2)の研究では、メンタルトレーニングを加えたグループのみ、腿の太さの変化が有意差あるか微妙なラインになっていて、筋肥大の可能性が示されている。
c) 重い重量でも恐れず挙上できるようになる。特に下半身種目は重量に圧倒されやすいので、メンタル面でのアプローチが有効だと考えられる。(2)の研究では、ベンチプレス1RMは有意差なしだけど、レッグプレス1RMでメンタルトレーニンググループがより良い結果を出せている。
d) イメージトレーニングを繰り返すことで脳からの神経信号の伝達が良くなって、より多くのモーターユニットをより強く、より協調して収縮できるようになる。(3)の研究ではフィジカルトレーニングを行わずメンタルトレーニングのみで、単関節動作(肘の屈曲)のストレングスが向上している。

イメージトレーニングは、三人称視点(他人の動作をビデオ映像で見るような視点)は効果が薄く、一人称視点の方が効果が高いようだ。目を閉じ、身体の感覚を意識し、セットポジションについてバーを握ることを想像し、バーベルの重さをイメージし、一人称視点で筋肉と関節の動作をイメージし、全力で筋肉を収縮させるつもりで脳を働かせる。実際のトレーニング動作と同じテンポ、同じレップ数、同じ力の入れ方でイメージを行い、コンセントリックで全力で力を入れ挙上速度を速くすることを意識すると良い。

(5)の研究によると、セット間にイメージトレーニングを行っても、脳が疲労してパフォーマンスが低下することはないようなのでデメリットは特にないだろう。一方で、イメージトレーニングとセルフトークを行うことで自信が深まり、モチベーションが高まり、ストレスレベルを低くできる。メンタルトレーニングを上手に活用すると、トレーニングの効果を大きく高められ、メンタルのコンディションを良好に保つことで質の高いトレーニングを長期間続けることが出来るだろう。


★実践方法
(1)の研究ではイメージトレーニングをフィジカルトレーニングが終わった後に30分間行っているけど、これだとトレーニング時間がかなり伸びる。(2)の研究ではセット間インターバルにイメージトレーニングを行って効果を得ているので、セルフトークを伴ったイメージトレーニングをセット間インターバルに行い、セット中もセルフトークで自分を鼓舞するのが時間効率が良いと思う。また実際の動作を行った直後だと、動作のイメージもしやすいだろう。

具体的には、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスなどコンパウンドのバーベル種目のセット間インターバルに、セルフトークを伴ったイメージトレーニングを行うのが良いだろう。フォームの改善や重量への恐れの克服といった点で、メンタルトレーニングで大きな効果を得られることが期待できる。またこれらの種目はセット間インターバルに息を整えて疲労からの回復を行う必要があるので、身体を休めつつメンタルトレーニングを行うとうまく時間を使うことができる。

アームカールなどのアイソレート種目はセット間インターバルに身体を休める必要性が低いし、フォームの改善の余地もほとんど無いだろうから、スーパーセットで他の種目をどんどんやっていった方が時間効率が良いと思う。



参考文献:

(1)Effects of mental training on muscular force, hormonal and physiological changes in kickboxers
https://www.researchgate.net/publication/304781460_Effects_of_mental_training_on_muscular_force_hormonal_and_physiological_changes_in_kickboxers

(2)Benefits of Motor Imagery Training on Muscle Strength
https://www.researchgate.net/publication/44636022_Benefits_of_Motor_Imagery_Training_on_Muscle_Strength
一人称イメージトレーニング vs コントロール。両グループとも同じ内容のフィジカルトレーニングを実施。イメージトレーニングはセット間インターバルに実施。ベンチプレス1RMは有意差なしだけど、レッグプレス1RMでメンタルトレーニンググループがより良い結果を出せている。

(3)Kinesthetic imagery training of forceful muscle contractions increases brain signal and muscle strength
https://www.researchgate.net/publication/257889303_Kinesthetic_imagery_training_of_forceful_muscle_contractions_increases_brain_signal_and_muscle_strength一人称視点イメージトレーニング vs 三人称視点イメージトレーニング vs コントロール。フィジカルトレーニング無し。一人称視点イメージトレーニングのみストレングスが向上。

(4)Effects of cognitive training strategies on muscular force and psychological skills in healthy striking combat sports practitioners
https://www.researchgate.net/publication/296573295_Effects_of_cognitive_training_strategies_on_muscular_force_and_psychological_skills_in_healthy_striking_combat_sports_practitioners一人称イメージトレーニング vs 一人称イメージトレーニング&セルフトーク vs コントロール。両グループとも同じ内容のフィジカルトレーニングを実施。セルフトークも行ったグループはコントロールグループに比べてストレングスの伸びが優れていただけでなく、3グループの中で最も自信が深まり、モチベーションが高まった。

(5)Does a mental training session induce neuromuscular fatigue?
https://www.researchgate.net/publication/260562449_Does_a_Mental-Training_Session_Induce_Neuromuscular_Fatigue
セット間インターバルにメンタルトレーニングを行っても、脳の疲労でフィジカルトレーニングのパフォーマンスが低下することはなさそう。

(6)Effects of relaxation and guided
imagery on knee strength, reinjury anxiety, and pain following
anterior cruciate ligament reconstruction.
https://www.researchgate.net/publication/232446753_Effects_of_Relaxation_and_Guided_Imagery_on_Knee_Strength_Reinjury_Anxiety_and_Pain_Following_Anterior_Cruciate_Ligament_Reconstruction
リハビリにもメンタルトレーニングは有効。

(7)Use of mental imagery to
limit strength loss after immobilization.
http://campus.univ-lyon1.fr/sciencespourtoi/files/2014/02/Etude_Newsom.pdf
怪我などで動けない時にメンタルトレーニングを行うと筋力低下を和らげる可能性。

8/15/2017

消化吸収の速いタンパク質と遅いタンパク質の長期の比較(ホエイ相当vsカゼイン)

(1) Effects of Post-Exercise Protein Intake on Muscle Mass and Strength During Resistance Training: is There an Optimal Ratio Between Fast and Slow Proteins?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28422532

https://www.researchgate.net/profile/Julien_Louis/publication/316266159_Effects_of_Post-Exercise_Protein_Intake_on_Muscle_Mass_and_Strength_During_Resistance_Training_is_There_an_Optimal_Ratio_Between_Fast_and_Slow_Proteins/links/590af1840f7e9b1d082491b4/Effects-of-Post-Exercise-Protein-Intake-on-Muscle-Mass-and-Strength-During-Resistance-Training-is-There-an-Optimal-Ratio-Between-Fast-and-Slow-Proteins.pdf

タンパク質の消化吸収速度と、血液中のアミノ酸濃度(特にロイシン濃度)の上昇の違いが、長期的な筋肥大およびストレングスの向上に影響を与えるのか。

タンパク質を摂取してから数時間程度の血液中のアミノ酸濃度と筋合成の度合いを調べた短期(acute)の研究だと、消化吸収が速くてロイシン含有率が高いホエイの優位性を示す研究が多い。これらの短期の研究を根拠としてサプリメーカーがホエイプロテインパウダーやロイシンに特化したサプリメントなどを売り込んでいるのだけど、以前も書いたように、これらの短期の研究だとトレーニング無しでもタンパク質摂取後に筋合成が起こっていて、トレーニング無しなら長期的には筋肥大も起きないだろうから、空腹時に筋分解が高まるなどしてどこかで帳尻を合わせている可能性がある。従って、短期の研究がホエイ優位を示しても、長期でも同じ結果になるのかは不明だった。

今回の研究は、レジスタンストレーニングに合わせて、消化吸収の速い水溶性のミルクタンパク質と、消化吸収の遅いカゼインを摂取し、長期的な筋肥大とストレングスの変化を比較している。長期でホエイ相当のタンパク質とカゼインの比較をしたまともな研究は恐らく初めてだと思う。



★実験方法
・被験者:レジスタンストレーニング歴のある若い男性。前年にプロテインパウダー摂取していない人のみ。だいたいの平均は身長180cm、体重76kg、体脂肪率17%、ベンチプレス1RMが90kg前後、スクワット3RMが95kg前後。


・プロテインドリンク
ミルクから精製された2種類のタンパク質を、割合を変えて混ぜ合わせて使用。
a) 水溶性ミルクタンパク質:消化吸収が速くアミノ酸組成がホエイに似ている。ホエイよりも精製されていない。
b) カゼイン:消化吸収が遅い。

この2種類のタンパク質の組み合わせを三つ作り、被験者3グループに割当。
FP(100) 水溶性ミルクタンパク質100%
FP(50) 水溶性ミルクタンパク質50% + カゼイン50%
FP(20) 水溶性ミルクタンパク質20% + カゼイン80%

プロテインドリンクに含まれるタンパク質の量は3種類とも20g。炭水化物も20g含まれている。これをレジスタンストレーニング終了後15分以内に摂取。


・レジスタンストレーニング
慣れるための準備期間が3週間、その後に本番9週間。トレーニング頻度は週に4回。3週間ごとにレップ数を減らし強度を上げるリニアピリオダイゼーション。


・食事
1日のトータルのタンパク質摂取量が体重1kgあたり1.5-2.0gになるよう食事指導。結果として平均で1.9g/kg程度摂取したのでタンパク質の摂取量は十分だと考えられる。


・体組成測定
DXA


・ストレングス測定
ベンチプレス1RM、スクワット3RM、アイソメトリックでの肘と膝の伸展・屈曲の力



★実験結果
プロテインドリンク摂取直後の血漿ロイシン濃度のピーク値、およびAUC(area under the curve:曝露量)に違いがあった。カゼイン80%のプロテインドリンクを摂取したグループ(FP20)は、水溶性ミルクタンパク質の割合が高いプロテインドリンクを摂取したグループ(FP100、FP50)に比べて、ロイシン濃度のピーク値とAUCが低くなった。




しかし長期的には3グループとも体組成とストレングスの変化に有意差なし。



★コメント
トレーニング後に摂取するプロテインドリンクの消化吸収が速くても遅くても、長期的な筋トレ効果は変わらないという結果になった。

今回の研究から得られる教訓は、

・摂取して数時間の血中のアミノ酸濃度や筋合成速度を測定した短期の研究は、そのまま長期の結果を保証するものではないだろう。
・ある一定のロイシン閾値を超えることが筋合成のトリガーになるといった、短期間の、そして複数ある筋合成ルートの一つでしか無いメカニズムが長期的な筋肥大を決めるわけではないだろう。
・運動後の「ゴールデンタイム」に、消化吸収の速いプロテインドリンクを慌てて飲む必要はなさそう。
・消化吸収が速いタンパク質と遅いタンパク質を組み合わせれば、筋合成促進と筋分解抑制の両面から効果を発揮でき筋肥大を最大化できる・・・という説もあまり意味がなさそう。

今後、この研究結果を覆す研究が出てくるかもしれないけど、現時点ではタンパク質の消化吸収の速度に神経質になる必要はないと思う。ただ胃腸が強くない人は消化吸収が速いプロテインパウダーを積極的に利用することで、胃腸のキャパシティがボトルネックにならず、十分な栄養を取ることが出来てより良い結果を得られるかもしれない。

基本は1日のトータルのタンパク質摂取量を確保し、一日に3,4回の食事、トレーニング前後の食事間隔があまり空かないように栄養供給するといった感じで良いだろう。

関連記事:ゴールデンタイムはあるのか?

健康面も考えるならリスク分散のためにタンパク質源は分散させた方が良いだろう。筋肉の餌としてのタンパク質のクオリティを考えた場合、必須アミノ酸、特にBCAAの含有率が高い方が良いのだろうけど、1日に体重1kgあたり2g程度のタンパク質を動物性食品中心に摂取すれば、アミノ酸組成の差は消えるのではないだろうか。食事でのタンパク質摂取量が足りない場合は、追加で摂取するプロテインパウダーのアミノ酸組成の差が筋肥大に影響するかもしれない(この記事にあるミルクとソイの比較はこのケースかも)。

維持・増量時にタンパク質摂取量を確保するためにプロテインパウダーを利用する場合は、価格や飲みやすさなどの総合面からホエイプロテインパウダーが優れていると思う。減量時やintermittent fastingなどで食事間隔が大きく空き、肝グリコーゲンの枯渇によりタンパク質が分解されやすくなる状況では、カゼインなど消化吸収の遅いタンパク質を積極的に摂取したほうが良いだろう。

関連記事:プロテインパウダーの選択

関連記事:タンパク質摂取量の目安



★類似した過去の研究
2つあるけどどちらもいまいち。

(2)The effect of whey isolate and resistance training on strength, body composition, and plasma glutamine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17240782

Whey vs Casein. Who will win?
https://evidencebasedfitness.net/whey-vs-casein-who-will-win/
この研究の中身の紹介と批評の記事

被験者数が少ないのも問題だけど、それ以外にもサプリメーカーがスポンサーなのが胡散臭くて、ホエイを摂取したグループのみ、やたらと良い数字が出ているのも胡散臭い。趣味でボディビルをやっている被験者が通常の食事に加えて一日に体重1kgあたり1.5gのプロテインパウダー(スポンサー提供)を摂取したら、加水分解ホエイ群のみが10週間で除脂肪体重が5kgも増えて体脂肪は1.4kg減って、カゼイン群は有意差なし。加水分解ホエイ群はスクワット1RMが80kgから156kgに上昇。トレーニング歴のある人が10週間でこの結果を得るのはちょっと考えにくい。体重1kgあたり1.5gという多量のプロテインパウダーを摂取するのも、実践面から参考にならない。


(3)Effects of soluble milk protein or casein supplementation on muscle fatigue following resistance training program: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4107592/
水溶性ミルクタンパク質群とカゼイン群の間でストレングスと筋肥大に有意差なかっただけでなく、プラシーボ群とも有意差なし。プロテインドリンクのタンパク質含有量が一回あたり10g(トレーニング日は3回、休息日は2回摂取)と少なかったためなのか、それとも一日のトータルのタンパク質摂取量がプラシーボ群でも十分だったのか。

8/06/2017

クレアチンについて

Examine.comのクレアチンについての記述を適当にピックアップして書きます。クレアチンは膨大な研究があるので自分で調べるのは無理っす。


★クレアチンの種類
- 市場には色々な種類があるけど、クレアチン・モノハイドレートが最も安価で最も効果的。粒を細かくした(micronized )クレアチン・モノハイドレートも、水に溶けやすくて実用面から使いやすい。


★摂取量
- ローディングフェーズでは1日に体重1kgあたり0.3gを5-7日間、その後の維持フェーズでは1日に体重1kgあたり0.03g以上を継続的に摂取する。ただ維持フェーズの0.03g/体重1kgという最低ラインは特に運動していない人に有効な量なので、運動量の多い人には足りないだろう(水泳のエリート選手が2g摂取を続けても筋肉中のクレアチンレベルが変わらなかったという研究がある)。
- 運動に熱心な人は一般的に維持フェーズで1日5g摂取する。筋肉量が多く活動量が多い人は、1日5-10gを摂取すると上積みの効果があるかもしれない。
- 早く効果を得たい人はローディングを行ったほうが良いが、ローディングを行わず最初から維持フェーズの摂取量を続けても、フルに効果を得るまで時間がかかるだけで最終的には同じ状態になる。


★摂取タイミング
- 運動前か運動後に摂取するのが良さそう。研究では有意差無しだけど、効果量や個人差の状況を見ると、どちらかと言うと運動後の方が良さそう。
- クレアチンと炭水化物を同時に摂取すると、グリコーゲン貯蔵が促進される。炭水化物と同時に摂取してもクレアチンの筋肉への取り込みは促進されないようだ。
- グリコーゲン貯蔵促進や、後述する胃腸の不具合回避の観点から、運動後にタンパク質と炭水化物を含む食事と一緒にクレアチンを摂取するのがおすすめ。


★注意点
- 十分な量の水を同時に摂取すること。水をあまり飲まず多量のクレアチンを摂取すると、胃痙攣になる場合がある。クレアチン・モノハイドレートで胃痙攣しやすい体質の人は、水に溶けやすいタイプのクレアチンを摂取すると良い。
- 一度に大量のクレアチンを摂取すると吐き気を催したり下痢になる場合がある。その場合は、一日複数回に分けて、食事と同時に摂取すると良い。
- 神経が鋭敏になったり落ち着きがなくなったりするという報告がある。プラシーボ効果かもしれないが、そのような症状を感じる人は寝る前には摂取しないほうが良いだろう。
- 一般的にローディングフェーズでは血中のクレアチニンレベルが上昇し、維持フェーズでは上昇しない。クレアチニンレベルは腎臓機能の生体指標として用いられるが、ローディングフェーズでのクレアチニンレベルの上昇は腎臓のダメージを意味するものではない。腎臓の状態を正しく示すクレアチニン値を得るためには、健康診断のタイミングでローディングを行わない方が良いだろう。


★運動面の効果
- 筋肉中のクレアチンレベルが上昇することで、ATP-PCr系のキャパシティが増大し、パワーとストレングスが向上する。初心者に比べると、エリートアスリートでは効果が小さい。
- 筋肉の保水量が増えることで体重が増加する。一般的には1-2kg程度増える。筋肉量の多い人がクレアチン摂取量を多めにすると2kg以上増えることも。クレアチン摂取量が少ないと体重増加も小さくなる。
- 筋肥大(タンパク質合成による筋肉組織の増加)を促進する効果がありそうだが、多くの研究では筋肉の保水量の増加と切り分けるのが困難。
- 運動中に疲労をやや軽減するかも。
- 筋肉へのダメージをやや軽減する。
- 筋持久力をやや向上させる。
- 持久運動での筋肉のカタボリックを抑制するかも。
- 体温上昇による疲労を低減する。


★パフォーマンス向上の大きさ
- クレアチンの効果は個人差が大きいが、一つの目安として数字を出すと、レジスタンストレーニングとクレアチン摂取を組み合わせると、プラシーボ群に比べてストレングス・パワーが2倍前後伸びることがメタアナリシス研究で示されている。
- トレーニング歴があってクレアチン摂取歴のない若い男性だと、ベンチプレスがプラシーボ群に比べて+7kg、スクワットが+10kg伸びた。
- クレアチン群とプラシーボ群の1RMの差はトレーニング8週間まで開き、その後は差が同じ。


★健康面の効果
- 食後の血糖値の上昇をやや抑えるかも。
- 骨密度をやや高めるかも。
- うつ状態の改善。SSRIの効果を増大させるようだ。
- テストステロンレベルの一時的な上昇。
- ベジタリアンの認知能力をやや向上させるかも(肉や魚にクレアチンが含まれていて、これらの食品を食べないとクレアチン不足になる)。
- 運動によるミトコンドリアDNAへの酸化ダメージをやや軽減。
- 尿酸レベルをやや低下。


★食品の含有量
クレアチンは動物の骨格筋や心臓に多く含まれている。レバーなど内蔵の含有量は少ない。以下は生肉の含有量で、調理すると低下する。長時間の加熱や水分の喪失によりクレアチンが多く失われる。
- 牛肉・豚肉1kgあたり約5g。
- 鶏肉1kgあたり約3.4g
- 魚も肉と同じくらいのクレアチン含有量。ニシンが多め。エビはほぼゼロ。


★健康への悪影響
特になし。


★男性型脱毛症を進行させるリスク
クレアチンの摂取によりDHTレベルが上昇したとする研究が一つだけある。従ってDHTレベルの上昇により、男性型脱毛症を進行させるリスクがある。ただ同様の結果を報告した研究は他になく、またクレアチンの摂取と男性型脱毛症の進行の関係について直接調べた研究もない。とりあえず男性型脱毛症ではない人は大丈夫だろう。

7/27/2017

ベンチプレスの背中のアーチ


上の動画を見て、なるほど~と思ったので紹介。


★脊椎の怪我リスク
脊椎は自然なS字カーブのニュートラルポジションを逸脱しつつ、強い力が加わると怪我のリスクが高くなる。デッドリフトやスクワットは圧縮方向の力とせん断方向の力が強く加わるので、脊椎はニュートラルポジションを維持する必要がある。

ベンチプレスでは、良いフォームで行えば脊椎に強い力が加わらないので、脊椎がニュートラルポジションから多少逸脱しても怪我のリスクは低い。もちろん過度に逸脱すれば怪我のリスクは高まる。

脊椎の安全or危険は、以下のとおり。(脊椎が健康であることが前提)
a) ニュートラルポジションを維持しつつ強い力が加わる→安全
b) ニュートラルポジションから逸脱するが強い力は加わらない→安全
c) ニュートラルポジションから逸脱しつつ強い力が加わる→危険


★ベンチプレスでの良い背中のアーチの作り方
1) 腰椎を限界まで反るのではなくて、背中全体を反る。腰椎は自然にカーブしているのであまり反ることを意識せず、胸を突き上げ胸椎を反るのを意識する。動画のような背中のアーチを作るには胸椎の柔軟性が要求されるので、普段から胸椎の柔軟性トレーニングをしておく必要がある。猫背・反り腰の人は、まずは姿勢矯正を行わないと、良いアーチが作れないだろう(下の参考記事を参照)。

2) 尻はベンチにつける。下の「悪い背中のアーチ」の図のように、尻を浮かして、腹を突き出して、腰を反ると、腰への負担が大きくなる。

3) 臀筋に力を入れる。そうすると骨盤の前傾(=腰椎の過度の反り)を防げるし、脚から上半身への力の伝達(レッグドライブ)がやりやすくなる。

4) 肩甲骨は引き寄せて動かさない。動かすのは肩関節と肘関節のみ。脊椎も肩甲骨も動かさない。

5) 挙上中はグラグラしない。脊椎にも肩関節にも危険。





★目的によるアーチの違い
競技としてベンチプレスを行う場合は、限界までアーチを作って挙上距離を短くしたほうが有利になる。単なる筋トレとしてベンチプレスを行う場合は、挙上距離を長くした方が筋肥大効果が高まり、力を発揮できる関節の角度の範囲が広くなる。ただ、アーチを作ると肩関節への負担が小さくなるので、肩の怪我リスクとトレーニング効果のバランスを考えると、筋トレ目的のベンチプレスでは軽くアーチを作るのが良い思う。



参考記事:
胸椎の姿勢矯正

バランスの取れたトレーニング種目の選択-エクササイズ編-

骨盤の前傾の矯正

7/21/2017

減量時に助かるアイテム(※個人の感想です)

★タンパク質源
・カッテージチーズ
カッテージチーズの主成分であるカゼインは消化吸収が非常に遅いので、アミノ酸の長時間供給の観点から減量時に向いている。カロリーオフカルピスを原液で少量かけると食べやすい。
カルピスの他のフレーバーをかけると色々な味になって楽しい。個人的には以下のレモン味がベスト。


・青魚の缶詰
オメガ3脂肪酸の摂取も兼ねて。鯖やサンマの塩焼きなど。蒲焼きや味噌煮は米が無いと味が濃い。水煮単品はちょっとキツイ。
味はこれが良かった。


・ミセラーカゼインプロテインパウダー
オプティマムのナチュラルカゼインのチョコ味とザバスホエイストロベリー味を混ぜて、少量の低脂肪乳で練り練りするとイチゴチョコ味になっておいしい。トルコアイスくらいの固さに練る。
国内メーカーでは普通の価格で買えるミセラーカゼインが見つからない、海外メーカーの人工甘味料の味付けが苦手、ということでオプティマムのナチュラルカゼインを個人輸入しています。





あとはツナ缶とか。私は偏食で肉が食べられないけど、サラダチキンなど脂質の少ない肉も良いですね。


★野菜
・ノンオイルドレッシング
生野菜に

・マジックソルトなど
茹で野菜に
・シーズニング
お酒にも合う低カロリーの料理が簡単に作れる



★旨味成分
旨味成分があるものを飲み食いすると空腹感を抑えやすい。

・低カロリーのインスタントスープ

・わさび茶漬けの元
乱切りキュウリにふりかけるとおいしい。お湯入れてスープとして飲むのもなかなかおいしい。

・ハードタイプのチーズ
パルミジャーノ・レッジャーノなど。旨味成分が豊富。少量をかじる。



★デザート
・ゼロカロリーゼリー
ブルボンも同じようなの出してるけど、たらみの方が食べごたえあって好み。

・かき氷器で氷を削ってCCレモンゼロをかける。


★便通対策
私の場合は以下の2点の組み合わせで毎朝ウンコが出ます。

・1日分の食物繊維
カゼインプロテインパウダーを練り練りしたものに乗せるとクリスピー食感が加わって美味。

・新ビオフェルミンS


関連記事:
減量時の食事調整例

[ボディメイク記録] 減量結果

前回の記録 5月27日
今回の記録 7月20日


★現状記録
筋グリコーゲンレベルは低い。直前のトレ履歴は、当日に上半身、前々日に下半身。


★身体計測
身長:180cm
体重:71.7kg(-6.3kg)
バスト:98.5cm(-1.0cm)
ウェスト:75.0cm(-7.0cm)
ヒップ:89.5cm(-4.5cm)
右上腕:28.5cm(-1.5cm)
左上腕:28.5cm(-1.5cm)
手首径:16cm
右大腿:55.5cm(-2.5cm)
左大腿:54.5cm(-2.5cm)
右カーフ:35.0cm(-1.0cm)
左カーフ:34.0cm(-1.0cm)
足首径:19cm


★主な種目のトレーニング重量
ベンチプレス・・・80kg×2reps
デッドリフト・・・125kg×1reps
スクワット(スミスマシン)・・・80kg×5reps
ヒップスラスト・・・85kg×10reps


★トレーニング種目明細
セット数: メイン3セットくらい。
レップ数:1セット目1-3レップ、2セット目3セット目5レップくらい
RPE:9か10(限界まで1レップ残しか0レップ残し)
インターバル:3-4分

重量は落とさず、レップ数を減らし、RPEを高めた。セット数も減らした。筋肉を維持できる最低限のトレーニングを目指した。トータルのボリューム(重量×セット数×レップ数)は通常時の半分くらいになっている。
減量中はエネルギー不足によりRMが低下。筋肉へのメカニカルな刺激はエネルギー十分の時のRMに対しての追い込み度(限界まで何レップ残すか)が関係すると考え、エネルギー十分の時のRPE7か8(限界まで3レップ残しか2レップ残し)と同じレップ数をやるには、エネルギー不足の時はRPE9か10が必要と考えた。またグリコーゲンレベルが低いので、低レップだとATP-PCr系の寄与が高まるのも好都合。セット間インターバルは長めにしてなるべく回復するように努めた。


メイン種目
- スクワット(週2回)
- デッドリフト(週2回)
- ベンチプレス(週2回)

補助種目
- ルーマニアンデッドリフト
- ヒップスラスト
- インクラインベンチプレス(スミスマシン)
- ナローグリップベンチプレス
- インクラインベンチにうつ伏せになってラテラルレイズ
- 片腕トラップレイズ
- キューバンプレス
- フェイスプル
- ローイングマシン
- カーフレイズ
- 片腕ランドマインプレス
- ショルダープレス
- サイドレイズ
- フロントレイズ
- デッドバグ


★運動内容
- 筋トレは基本的に上半身を週2回、下半身を週2回。
- 有酸素運動は、ウェイトトレーニング後に20分くらい有酸素マシン(エリプティカルトレーナー)を漕いだ。それと保育園の送り迎えで平日は計一時間くらい歩いた。


★食事内容
- 食事回数は一日2回。昼と夜。トレーニング日はトレーニング直前にホエイプロテインパウダー。総カロリーはトレーニング日でもそれ以外でもあまり変わらず。
- 序盤から炭水化物源の主食はカットし、特にリフィードは入れなかった。家庭の平和のため夕食内容は基本的に嫁任せなので、摂取カロリーを削れる時に削っていった。
- タンパク質の摂取量はだいたい2.5g/体重1kg/日。動物性食品とプロテインパウダーのみ摂取量にカウント。
- 脂質の摂取量はあまり把握していないけど、卵や魚や乳製品など高たんぱく質食品に付随する脂質を普通に摂取した。
- 健康のため、野菜や豆も摂取。
- 週末に缶ビールを1本飲んだ。お酒弱いので1本でも酔えて有り難い。


★雑感
- 摂取カロリーを削れる時に削っていったら、以前よりも減量ペースが速くなった。グリコーゲンと水分の変動を除いて、2ヶ月弱で体重が6%くらい減少。筋トレは維持を目指してトレーニングボリュームを半分くらいに減らした。筋トレ重量の下がり方はこれまでの減量とあまり変わらない感じだった。
- 維持カロリーだと、若い初心者はボリュームを1/3にしても筋肉量と筋力を維持・向上できるという研究がある。減量時にトレーニングボリュームを減らしても筋肉量を維持できるのか調べた研究が存在するのか知らないけど、とりあえず私の身体はボリュームを半分に減らしても大丈夫なようだ。いい感じで無駄な努力をしなくて済んだ。
- もうちょっと体脂肪を減らしたいけど、これ以上減らしても摂取カロリー戻すと体脂肪が今くらいのレベルにすぐ戻って徒労感があるので、とりあえずこの程度にしておくのが自分の身体にとっては費用対効果が良いだろう。それに育児の負荷があるので、多くの労力を割けない。
- 終盤はグリコーゲンが抜けすぎて力が入りにくくなった。あと睡眠の質が落ちた。


★怪我
- 昨秋痛めた右肘の上腕骨内側上顆炎はだいぶ良くなってきたが、スクワットでバーを強く握るとまだ痛むので、完全には治っていないようだ。懸垂とアームカールがまだ出来ない。


★今後の予定
- とりあえず維持してからゆるやかに増量。減量は生活への負荷が大きいので、あまり体脂肪を増やしたくないなあ・・・。
- クレアチンを試してみるつもり。もう若くないので、元気なうちに色々と試したい。

7/11/2017

低炭水化物食とタンパク質源の健康への影響


★低炭水化物食と死亡リスクのメタアナリシス研究
(1) Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3555979/

10年20年といった長期のスパンの観察研究を集めて、システマティックレビューとメタアナリシスを行った研究。聖路加国際病院の能登洋氏他の研究。この方の名前で検索すると、糖質制限派の方々から叩かれてる記事が出てきますね。

まあ余計なことはあまり書かず、中身を見ていきます。

摂取カロリーに占める炭水化物の割合を十分位数に区切ってスコア付け。最も炭水化物摂取量が低いグループは総摂取カロリーに占める炭水化物の割合が30-40%くらい、最も摂取量が多いグループは60-70%くらい。

最も炭水化物摂取が多いグループの全死因死亡率に対しての、最も炭水化物摂取量が少ないグループの全死因死亡率をリスクレシオとして算出。リスクレシオは約1.3となった。

つまり最も炭水化物摂取が多いグループに比べると、最も炭水化物摂取量が少ないグループは死亡リスクが1.3倍になる。炭水化物の摂取量が少ないと死にやすくなるという、糖質制限派の人にとっては受け入れられない結果になっている。

この研究の強みは、人種構成や食習慣が異なる様々な地域のデータをまとめて解析していること。弱みは、タンパク質源がどのような食品か、炭水化物源がどのような食品か、どのような脂質を摂取しているか、食物繊維などの栄養素の摂取量はどうなのかといった点が考慮されていないこと。



★植物性食品と動物性食品の影響
(2) Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2989112/
(1)の解析対象にもなっている研究。アメリカの医者と看護師が対象のコホート研究。栄養と健康について普通の人よりも意識が高いと考えられる。

この研究では、年齢、運動、BMI、エネルギー摂取量、飲酒、高血圧、喫煙、マルチビタミン摂取、閉経、閉経後のホルモン療法で結果を調整している。(当記事内の他のコホート研究でもメジャーな交絡因子については調整されてる)

最も低炭水化物グループで摂取カロリーに占める炭水化物の割合が35-37%%くらい、タンパク質が動物性18%くらいで植物性4%くらい。それほど極端な低炭水化物ではないけど、各階級のリスクレシオを見ると、低炭水化物になるほど死亡リスクが上がっているので、もっと極端な低炭水化物食だとさらに死亡リスクが高まると考えられる。

ただこの研究はここからが面白くて、低炭水化物食でも動物性食品を多く摂取すると死亡リスクが高まり、植物性食品を多く摂取すると死亡リスクが低くなる(下図参照)。つまり植物性食品を積極的に食べる食生活なら、低炭水化物食になるにつれて死亡率が下がる。主なカロリー源がパンやパスタやお菓子やジュースなどの精製された炭水化物から、ナッツや豆やオリーブオイルなどに置き換わっているからだと考えられる。また植物性食品を積極的に食べる食生活のグループでも赤身肉を1日70gくらい食べている。肉はほどほどに食べ、植物性食品を多く食べるのが健康に良いのだろう。

動物性食品中心の食生活では、赤身肉の健康にネガティブな成分の摂取が増えることに加えて、食物繊維やフィトケミカルの摂取が少ないことが死亡リスクに影響していると考えられる。いきなり赤身肉を槍玉に挙げていて違和感あるかもしれないけど、赤身肉とその他の動物性食品の健康への影響についてはこれから詳しく見ていく。

アメリカ人の高炭水化物食なんてピザやフライドポテトやケーキや菓子やジュースばかりだろうけど(偏見)、それでも動物性食品よりも炭水化物中心に食べる方が死亡リスクが低い。





★赤身肉
要点:アメリカ人ばりに赤身肉をたくさん食べると死亡リスクが高まる。日本人の常識の範囲内で食べるのは問題ないだろう。赤身肉を食べなすぎても死亡リスクが高まるかもしれない。

(3) Red Meat Consumption and Mortality: Results from Two Prospective Cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3712342/
(2)の研究と同じ調査データを使用した研究。赤身肉の摂取量が増えると、それに比例して死亡率が高まる(下図参照)。ヘム鉄の過剰摂取、N-ニトロソ化合物、複素環アミン、多環芳香族炭化水素などの発がん性物質、加工肉のナトリウムと亜硝酸塩、これらの物質の過剰摂取が死亡率の上昇に影響を与えていると現時点では推測されている。

下のグラフでの1servingは85g。例えば一日あたり赤身肉200gを食べ続けると、死亡リスクが約1.5倍になる。BMIやカロリー摂取量など主な交絡因子に加えて、ホールグレイン・果物・野菜の摂取量でも調整済みの数字なので、体型に気をつけて太らないようにしても、野菜や果物も食べても、赤身肉をたくさん食べ続けると死亡リスクが高まる。加工肉(ハムやソーセージ)でも非加工肉でも死亡リスクは高まる(Table 2)。脂質が少なくても高まるだろう。



(4) Meat intake and cause-specific mortality: a pooled analysis of Asian prospective cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3778858/
調査対象がアジアの研究。赤身肉を食べる量が増えると死亡率がやや下がる。上のアメリカの研究と結果が異なるのは、もともとの赤身肉の消費水準がアメリカに比べてアジアでは大幅に少ないためと思われる。アメリカみたいに赤身肉を食べすぎるのは死亡率を高める要因だけど、食べなすぎるのも健康には良くないのかもしれない。もしくはアジアでは赤身肉を食べられるということが生活水準の豊かさの指標になっていて、豊かだから医療へのアクセスなども良好で死亡率が低いということなのかもしれない。



★飽和脂肪酸
要点:赤身肉とセットで語られることの多い飽和脂肪酸もついでに。飽和脂肪酸については気にしなくて良さそうだけど、牛脂に多く含まれるフィタン酸は糖尿病リスクを高めるかもしれない。

(5) Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4532752/
飽和脂肪酸は健康に悪くないという考えが今は優勢のようだ。しかし細かく見ていくと、飽和脂肪酸にも種類があり、含まれる炭素の数が偶数(even)か奇数(odd)かで分類され、乳製品に多く含まれる種類の飽和脂肪酸(odd-chain)は糖尿病リスクを下げ、牛肉などに多く含まれる種類の飽和脂肪酸(even-chain)は糖尿病リスクを高める可能性がある。ただ、血中のeven-chain飽和脂肪酸は、食品の摂取よりも炭水化物やアルコールからの脂質合成に関連しているという見方もあるし、耐糖能に関連するodd-chain飽和脂肪酸は摂取よりも体内合成によるものという見方もある。

(6) Odd Chain Fatty Acids; New Insights of the Relationship Between the Gut Microbiota, Dietary Intake, Biosynthesis and Glucose Intolerance
https://www.nature.com/articles/srep44845
2017年の研究で、動物実験と人間での実験を組み合わせたもの。乳製品に多く含まれるodd-chain飽和脂肪酸であるC15:0は食品摂取量と血中レベルが相関するが、C17:0は相関しない。C17:0の血中レベルは体内合成次第と考えられる。フィタン酸(牛脂に多く含まれる)とC17:0の血中レベルが逆相関していて、フィタン酸がC17:0の体内合成(C18:0からのα酸化)を妨げるようだ。動物実験だとC15:0の血中レベルは耐糖能と相関なしだが、C17:0の血中レベルが耐糖能と逆相関する。つまり赤身肉の脂質が糖尿病リスクに関わるとしたら、飽和脂肪酸ではなくてフィタン酸が悪影響を与えているのかもしれない。その場合はフィタン酸の体内での代謝が直接的に、もしくはC17:0に耐糖能に関わる働きがあってフィタン酸がC17:0の血中レベルを下げることで間接的に悪影響を与えていると考えられる。
またC17:0の摂取量と血中レベルが相関しないことから、乳製品が糖尿病リスクを抑えるというのも、乳製品に多く含まれるC15:0やC17:0の効果ではなくて、その他の生物活性物質の影響なのかもしれない。



★乳製品
要点:乳製品の摂取量が多くなると、前立腺がんのリスクが高まる。乳製品の摂取量が多く、血縁者に前立腺がんを患った人がいる場合は、前立腺がんに注意したほうが良いだろう。乳製品は健康に良い面もある。トータルの健康への影響を考えた場合、前立腺がんリスクを補って余りあるかもしれない。乳製品の摂取は全死因死亡率には影響なし。

(7) Dairy products intake and cancer mortality risk: a meta-analysis of 11 population-based cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5073921/
牛乳で男性の前立腺がんリスクが増大する以外は、ガンの死亡率に影響なし。

(8) Dairy consumption and the risk of 15-year cardiovascular disease mortality in a cohort of older Australians.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23389303
心臓血管の疾患には影響なさそう。

(9) Dairy products, calcium, and prostate cancer risk: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25527754
牛乳、低脂肪牛乳、チーズでも前立腺がんリスクが上がる。乳製品の摂取を1日400g増やすごとに、前立腺がんリスクが7%上がる。

(10) Milk and dairy products: good or bad for human health? An assessment of the totality of scientific evidence.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27882862
乳製品は一部のガンを抑制したり、どっちかというと健康に良い傾向みたい。全死因死亡率には影響なし。

(11) Proliferative effect of whey from cows' milk varying in phyto-oestrogens in human breast and prostate cancer cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22280936
試験管内の実験だけど、ホエイ(液体)に前立腺がん細胞の増殖効果がある。ホエイが除かれているチーズでも前立腺がんリスクが上がるので、ミルク全体に含まれる何らかの生物活性物質が前立腺がんリスクを上げるようだ。ホエイプロテインパウダーでもその物質は残っているのだろうか? 前立腺がんリスクのみを気にするのなら、なるべく精製度の高いプロテインパウダーの方がリスクが低くなるかもしれない。その分、健康に良い影響を与える生物活性物質も減るので、トータルでの健康へのリスクを考えた場合、どちらが良いのかは不明。ただプロテインパウダーだとミルク換算ではかなり大量に摂取することもできるし、タンパク質源は分散させるにこしたことはないだろう。

(12) A milk protein, casein, as a proliferation promoting factor in prostate cancer cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25237656
こっちはカゼインを使っての試験管内での実験。カゼインでも前立腺がん細胞の増殖効果が確認された。



★魚
要点:脂質の多い魚はほどほどに食べるのが良さそう。

(13) Fish consumption and mortality in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition cohort
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4356893/
研究対象はヨーロッパの人。魚の摂取量と全死因死亡率に相関なし。トレンドとしては脂質の多い魚を食べなすぎでも、食べ過ぎでも死亡リスクが上がる傾向(有意差は無し)。魚は水銀やダイオキシンやポリ塩化ビフェニルなどの汚染物質が含まれている可能性があって、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニルは脂質に溜まるので、食べ過ぎでも健康に悪影響が出るのかもしれない。もしくはデンマークなどの特定の国の魚の食べ方(燻製や酢漬け)が発がん性に影響しているのかも。ただ食べなすぎでも魚の健康効果を得られなくなるので、ほどほどに食べるのが良いだろう。

他の研究では、魚の摂取量と死亡率には相関無しか、摂取量が増えると死亡率が下がるといったものも出ている。



★鶏肉
要点:鶏肉の健康への悪影響はあまり気にしなくて良さそう。

(14) Prospective investigation of poultry and fish intake in relation to cancer risk
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3208759/
アメリカ人対象。魚と鶏肉をまとめて白身肉と呼んで、赤身肉を白身肉に代替したとすると、多くのガンの発生率が下がる(一部のガンは発生率が上がる。Figure1)。赤身肉の摂取量をそのままで、鶏肉の摂取量を増やしても、ガンの発生率が全体で見て上がる感じではない(Figure2)。

(15) Red Meat Consumption and Mortality: Results from Two Prospective Cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3712342/
アメリカ人対象。この研究では赤身肉を鶏肉に代替したとしたら、死亡率が下がる。魚と代替した場合よりも死亡率が下がる。ナッツでも鶏肉でも魚でも低脂肪乳製品でもホールグレインでも豆でも、赤身肉と代替すると死亡率が下がる(下図参照)。

あと(4)のアジア人を対象とした研究で、鶏肉の消費量と死亡率の関係のデータもあって、これは鶏肉の消費量が増えると死亡率が下がる(Table3)。


★卵
要点:毎日1個や2個なら問題なさそう。極端に卵を多く食べるケースがあまり無いのでデータが無い感じ。そもそも卵は脂質が多いので、総摂取カロリーの面から普通はあまり多く食べないだろう。

(16) Egg Consumption and Human Cardio-Metabolic Health in People with and without Diabetes
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4586539/



★炭水化物
要点:精製度の高い炭水化物はあまり多く食べない方が良さそう。

(17) Amount, type, and sources of carbohydrates in relation to ischemic heart disease mortality in a Chinese population: a prospective cohort study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4144114/
シンガポールの中国系対象。虚血性心疾患のリスクのみだけど、トータルの炭水化物摂取量はリスクに関係ない、デンプンの摂取量が増えるとリスクが上がる、米を麺類に代替するとリスクが上がる、米を野菜や果物や全粒粉パンに代替するとリスクが下がる。ただ米と一緒に食べられることが多い食べ物が疾患リスクに影響を与えている可能性があって、デンプンの過剰摂取が問題なのか、一緒に食べられることの多い食べ物が問題なのか切り分けるのは困難とのこと。

(18) Dietary Glycemic Load and Index and Risk of Coronary Heart Disease in a Large Italian Cohort
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/225342
イタリア人対象。精製度の高い炭水化物をたくさん食べると、女性は冠動脈心疾患リスクが高まる。男性は有意差なし。

(19) High carbohydrate intake from starchy foods is positively associated with metabolic disorders: a Cohort Study from a Chinese population
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4652281/
中国人対象。デンプン摂取量とメタボになるリスクは相関、デンプン以外の炭水化物摂取量とメタボリスクは相関無し。



★長期的な糖質制限食について
以上の知見を元に、長期的な糖質制限食についての個人的なコメントを書いておきます。

a) カロリーオーバーになっているので、一日のうち一食はお米を抜くといったライトな糖質制限。
→おすすめ。カロリーオーバーは万病の元。炭水化物を抜くなら朝か昼がおすすめ。

参考:ダイエットでは夜に炭水化物を集中的に食べよう

参考:インスリンにまつわる迷信と事実

b) 胚芽米、雑穀米、全粒粉など精製度の低い穀物や豆類やイモ類やナッツなどから主にカロリーを摂取し、タンパク質源として肉、魚、乳製品、卵をバランス良く食べ、野菜もしっかり食べる常識的に考えて健康的な食生活。
→非常におすすめ。手間とお金がかかるけど・・・。

c) 米やパンなど糖質源となる食品はなるべく食べず、そのかわりに赤身肉をたくさん食べる食生活。
→おすすめしない。

d) 糖質を多く含む食品はすべて悪者として、米やパンだけでなくイモや豆類や根菜や果物まで拒否する食生活。
→おすすめしない。

e) ケトジェニックダイエット
→特定の疾患の人と、極度に低い体脂肪率を目指す人が短期的に行う以外は、おすすめしない。

参考:女性の糖質制限

参考:高タンパク質/低炭水化物食がメンタルに及ぼす影響



以上は、運動習慣は平均レベル、カロリーオーバーにならず普通体型を維持するのが条件。運動量が多い人は精製された炭水化物の摂取量を増やしても良いと思う。運動には心臓血管系やインスリン感受性への好影響がある。それに精製度が低くて食物繊維たっぷりのヘルシー食生活で、運動量が多い人が必要な摂取カロリーを食べようとすると消化能力が追いつかなくなってしまう。摂取カロリー1000kcalあたり食物繊維10g程度を目安に食べると良いと思う。運動量が多いとタンパク質の摂取量も増やす必要があるので、タンパク質源は分散させよう。

今回の記事は、健康を主眼として考えた場合の話で、多少リスクが上がってもいいから好きなものをたくさん食べるというのも選択肢の一つ。その場合も、色んな食べ物を分散して食べ、適度な運動を行うと健康を害するリスクを抑えることが出来るだろう。

大切なのは、「○○という食品は健康に良い」「□□という食品は健康に悪い」「△△のカテゴリの食品は避け○○のカテゴリの食品はいくらでも食べて良い」といった善悪二元論みたいなアプローチは止めること。

現時点の科学で解明できていることなんてごく僅かだし、部分最適は全体最適を意味しない。細胞レベルの挙動や特定の健康指標に関する短期の実験結果が、数十年のトータルでの健康への影響を説明するわけではない。現状わかっている部分的なことだけ見て、それを元に「最高の食生活」を組み立てるのは浅知恵だろう。特定の食品ばかり食べず、特定のカテゴリの食品を排除せず、なるべく多くの食品をバランス良く食べリスク分散することが最も良い方法だと思う。

またアップサイドとダウンサイドのリスクを考えても、ケトジェニックダイエットのような特殊な食生活はうまみがない。例えば若い時の株式投資だったら、少数銘柄に集中投資するのも一つの選択肢になる。上手くいったときのリターンが大きいし、失敗してもお金が無くなるだけで若ければやり直せる。でも特殊で極端な食生活は、仮に上手くいったとしても寿命が大幅に伸びるわけではないし、何十年も続けて失敗したらもうやり直せない。アップサイドが限定的で、ダウンサイドがどれだけあるかわからず、やり直しがきかない。うまみの無い賭け。

あと、「人類の歴史を考えると農耕が始まったのはごく最近で、それ以前の人間の生活では○○の食材はほとんど食べてない。人間の身体はその当時のような食生活に適応しているから、現代でもそういう食生活をすると健康で長生きできる」といったストーリーを極端な食生活の論拠にするのを見かけるけど、この考え方は根本的に間違っている。進化による適応はその性質をもたらす遺伝子が繁栄したからであって、個体が健康で長生きしたからではない。個体は遺伝子の使い捨ての乗り物であり、基本的には繁殖を終えるまで元気に動けばよく、それ以降も丈夫で長持ちする個体になっても無駄にコストがかかるので遺伝子拡散競争で不利になる。

ただ人間は子孫の繁栄を助けることで遺伝子の拡散を後押しできるから、生殖・子育てを終えたあとも個体が健康で長生きしたほうが有利な面がある。しかしそれを考慮しても、狩猟採集時代の平均寿命は死亡率の高い幼少期を生き延びたとしても30年や40年だろうから、現代人の中高年以降の健康と長生きには選択圧はかかっていないと考えられる。従って狩猟採集時代の食生活が、80年生きる現代人の健康と長寿に良いか悪いかは、前述のストーリーからは何も言えない。


6/23/2017

筋トレの消費カロリー

筋トレでどれくらいカロリーを消費するのか調べてみました。


★研究例
エネルギーの消費は、運動中(セット間インターバル含む)と運動後の両方で行われる。筋トレの消費カロリーはどのくらいあるのか、日常的にトレーニングをしている人を対象とした研究を中心に見てみる。

(1)The effect of between-set rest intervals on the oxygen uptake during and after resistance exercise sessions performed with large- and small-muscle mass.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21993043

被験者:男性
ボリューム:15RMの重量で10レップ×5セット
種目:1種目(レッグプレス or チェストフライ)
インターバル:1分 or 3分
運動後測定時間:90分間
消費カロリー:運動中と運動後合わせて、レッグプレスが約90kcal、チェストフライが約50kcal(インターバル1分or3分で違い無し)。


(2)The metabolic costs of reciprocal supersets vs. traditional resistance exercise in young recreationally active adults.
http://clinicahomeostase.com.br/wp-content/uploads/2015/03/Valmor-Tricoli_JSCR-2010-superset.pdf

被験者:趣味で運動している若い男性。平均値は身長175cm、体重76kg。
ボリューム:70%1RMの重量で各セット疲れるまで×4セット×6種目。スーパーセットと通常トレの2グループ。
種目:6種目(ベンチプレス/ベントオーバーロー、アームカール/トライセップスエクステンション、レッグエクステンション/レッグカール)
インターバル:スーパーセットは1種目目→2種目目は即座、1種目目に戻る時は1分。通常トレは各セット間1分。
トレーニング時間:スーパーセットは29分、通常トレは36分。
運動後測定時間:60分間
消費カロリー:運動中はスーパーセットが241kcal、通常トレが228kcal。運動後はスーパーセットが19kcal、通常トレが14kcal。血中乳酸濃度から算出した無酸素解糖系の寄与はスーパーセットが18kcal、通常トレが17kcal。


(3)Effects of Load-Volume on EPOC After Acute Bouts of Resistance Training in Resistance-Trained Men
https://www.researchgate.net/publication/232532830_Effects_of_Load-Volume_on_EPOC_After_Acute_Bouts_of_Resistance_Training_in_Resistance-Trained_Men

被験者:トレーニング歴のある若い男性。平均値は、年齢22歳、身長177cm、体重88kg、体脂肪率9.9%、ベンチプレス1RM137kg、スクワット1RM177kg。 
ボリューム:85%1RMを各セット6-8レップ。4種目の重量×セット数×レップ数が計10000kgと計20000kg。
種目:スミスマシンを使用して4種目(スクワット、ベンチプレス、ベントオーバーローイング、ルーマニアンデッドリフト)
インターバル:2分
トレーニング時間:10000kgが44分、20000kgが90分。
運動後測定時間:12、24、36、48時間後に安静時代謝を測定。
消費カロリー:運動中の消費カロリーは10000kgが247kcal、20000kgが484kcal。運動後の測定タイミングでは安静時代謝の上昇は無し。


(4)Circuit weight training and its effects on excess postexercise oxygen consumption.
https://www.researchgate.net/profile/Edward_Hebert/publication/12711214_Circuit_weight_training_and_its_effects_on_excess_postexercise_oxygen_uptake/links/02bfe5112c787a9f92000000/Circuit-weight-training-and-its-effects-on-excess-postexercise-oxygen-uptake.pdf

被験者:トレーニング歴のある若い男性 平均値は身長180cm 体重85kg 体脂肪率16%。
ボリューム:75%20RM(41.4%1RM))の重量で20レップ。8種目を2周(サーキットトレーニング)
種目:8種目(レッグプレス、ベンチプレス、レッグエクステンション、ラットプルダウン、レッグカール、シーテッドロウ、トライセップスエクステンション、アームカール)
インターバル:20秒 or 60秒
トレーニング時間:インターバル20秒グループは13分、60秒グループは23分。
運動後測定時間:60分間
消費カロリー:運動中は20秒グループが191kcal、60秒グループが240kcal。運動後は20秒グループが52kcal、60秒グループが37kcal。


(5)Resistance and aerobic exercise have similar
effects on 24-h nutrient oxidation
http://www.luzimarteixeira.com.br/wp-content/uploads/2015/07/Resistance-and-aerobic-exercise-have-similar.pdf

被験者:日常的に運動している男性。平均値は年齢31歳、体重75kg、体脂肪率19.4%。
ボリューム:70%1RMを10レップ(4セット目は限界まで)×4セット×10種目。
種目:スーパーセットでマシン10種目(チェストプレス/ローイング、レッグエクステンション/レッグカール、トライセップスエクステンション/アームカール、クランチ/ミリタリープレス)
インターバル:スーパーセットを3分サイクル
トレーニング時間:60分
運動後測定時間:運動中と合わせて24時間(被験者のいる部屋まるごと測定)。食事コントロール有り(タンパク質割合15%)。尿(窒素)計測
消費カロリー:運動中322kcal、運動後148kcal



★筋トレによる消費カロリーの目安
扱える重量や短いインターバルのトレーニングをこなせる体力によって、トレーニングレベルを初級・中級と上級に分ける。上に紹介した研究だと(3)(4)が上級、それ以外が初級・中級。

運動時間30分あたりの運動中の消費カロリーを大雑把に書くと以下のようになるだろう。消費カロリーに影響を与える要因については、後ほど細かく見ていく。

a) フリーウェイトのコンパウンド種目中心に1セットあたり6-12レップ、インターバル2-4分の一般的なウェイトトレーニングを30間分行った場合。
初級・中級: 100-150kcal
上級: 150-200kcal

b) 1分以内の短いインターバルでの高レップウェイトトレーニングやサーキットトレーニングを30分間行った場合。
初級・中級: 150-250kcal
上級: 300-400kcal

これに加えて運動後の消費カロリーが24時間で20-150kcal程度だろうか。短いインターバルで高強度の運動を長時間やると、運動後の消費カロリーも大きくなる。


実用面ではこんな感じで良いだろう。それでは細かい話を書いていく。知っててもあまり役に立たないかもしれないけど、自分の勉強メモなので。



★運動中の消費カロリー
運動中の消費カロリーは、仕事(物理学)に概ね比例する。

ウェイトトレーニングにおいて身体が発揮する力がバーベルに対して行う仕事を単純化して書くと、

仕事=力×移動距離

つまり、より重いものをより長い距離動かすと、より多くカロリーを消費する。

- 一般的に下半身の種目の方が重量と動かす距離が大きいので、より多くのカロリーを消費する。
- 重量が同じならパーシャルよりもフルレンジの方が多くカロリーを消費する。
- 高重量を扱える上級者ほど、消費カロリーが大きくなる。
- (3)の研究のようにトレーニングボリュームを倍に増やすと、消費カロリーも倍になる。
- 同じトレーニングボリュームなら、インターバルを短くすると時間あたりの消費カロリーが大きくなる(トータルの消費カロリーはほぼ同じ)。



★運動後の消費カロリー
激しい運動を行った後は、休んでいてもしばらくの間は酸素の消費量が増加し、安静時代謝も上昇する。運動後の酸素消費量の増加のことをEPOC(Excess Postexercise Oxygen Consumption)と言う。

(2)の研究のデータから一般的な運動後の安静時代謝のグラフの例を示す。運動直後が最も大きく、その後は急激に下がっていく。

EPOCがなぜ起こるかざっくりした説明をすると、

a) ストレス反応
強度の高い運動によりストレス反応が起きる。交感神経が活発になり、体温・心拍が上昇し、呼吸が速くなり、体脂肪やグリコーゲンの分解によるエネルギーの動員が活発になり、「闘争か逃走か」に身体が備える。これが運動後もしばらく続く。

b) エネルギー源の補充
激しい運動で失われたATP/PCrの補充。有酸素性エネルギー代謝により、ATP/PCrを補充する。乳酸塩の一部は肝臓に運ばれピルビン酸塩に変換され、ATPを消費し糖新生でグルコースが生成され(コリ回路)、グリコーゲンの再合成が行われる。

c) 組織の回復・適応
ダメージを受けた組織を回復する。刺激が大きく適応が必要な場合は、筋肥大、腱・靭帯の強化、有酸素能力増大などの適応反応も起こる。


酸素の消費量が増え、安静時代謝が増加する要因は複数あって、全てが明らかになっているわけではないが、今のところわかっている主なメカニズムを書いていくと、

- ATP-PCrの再合成。運動直後の数分間に盛んに行われる。運動中のセット間休憩の時も行われている。
- ナトリウムイオンやカリウムイオンの再配分。細胞膜内外のイオンのバランス回復。
- トリグリセリド/脂肪酸サイクルの増加。体脂肪の分解・合成が増え、エネルギーが動員される。この分解・合成にはエネルギーが必要なので、消費カロリーも増える。(8)の研究参照。
- 体温・心拍が上昇し。呼吸が速くなる。消費カロリーが増える。
- 脂質代謝優位。グリコーゲンを多く消費する高強度の運動のあとは、脂質の代謝の割合が高まり、糖質はグリコーゲンの補充に回されやすくなる。1kcalを生み出すのに必要な酸素の量は糖質よりも脂質のほうが多いので、仮に消費カロリーが変わらなくても脂質代謝の割合が高まる時は酸素の消費量が増える。
- コルチゾールや甲状腺ホルモンや成長ホルモンやノルアドレナリンやイリシンやANPなどの各種ホルモンの効果。
- ヘモグロビンとミオグロビンへの酸素の貯蔵。
- 交感神経が活発になる。
- 筋肉のダメージの回復。タンパク質合成はコストの高い活動で、エネルギー消費量が増える。


酸素消費量の増加が続くのは、通常は運動後1時間程度。非常に強度の高い運動をすると24時間~48時間続くこともある。

酸素の消費量が増えれば、だいたいは安静時代謝も増える(消費カロリーが増える)。ただ脂質代謝の割合が高まることや、ヘモグロビンとミオグロビンへの酸素の貯蔵については、消費カロリーが増えているわけではない。

EPOCの大きさに影響するのは、運動強度、運動時間、セット間インターバルなど。高強度の運動を長時間、インターバルを短くして行うと、EPOCの程度が大きくなり運動後も長時間続くようになる。

多くの研究での運動プログラムは、被験者にとって普段のトレーニングに比べて新規の刺激になっている。現実ではトレーニングを繰り返すに従ってトレーニングに慣れ、身体が受ける刺激の程度も弱まって、EPOCも小さくなると考えられる。(3)の研究のように、継続的にトレーニングをしている人がいつもと同じようなトレーニングをした場合は、EPOCは長時間は続かないだろう。

もちろんトレーニングに慣れるのは良いことで、適度な慣れと適度な漸進的過負荷が向上には必要。仮にEPOCを最優先するなら、短いインターバルのトレーニングを繰り返すことで筋持久力が高まりサーキットトレーニング向きの適応が起こるか、トレーニングの強度を高くしすぎることで一週間はまともにトレーニングできないレベルの疲労状態になって、次のトレーニングに支障が出るかするだろう。



★エネルギー消費量測定方法の問題点
ほとんどの研究では、間接熱量計を用いて被験者の吐き出す息(呼気)を分析し、酸素消費量と二酸化炭素産生量からエネルギー消費量を算出している。この分析方法には問題点がいくつかある。

a) 測定時間の問題
運動後のエネルギー消費量の増加はだいたい1時間以内に終わることが多いが、運動強度が高かったりした場合は、わずかな安静時代謝の上昇が1,2日後まで続くことがある。12時間後、24時間後といったポイントでの測定を行っている研究もあるが、正確性を期すなら(5)の研究のように連続して測定するのが良いと考えられる。

b) 無酸素解糖系の問題
無酸素解糖系で乳酸塩を生成する際に失われるエネルギーは不可逆で、運動中も運動後も呼吸に表れない。乳酸塩が最終的に有酸素性エネルギー代謝で水と二酸化炭素になるとしても、無酸素解糖系部分の消費エネルギーは酸素の消費量の測定からは拾えない。詳しくは(9)の論文参照。従って高レップウェイトトレーニングやサーキットトレーニングなど無酸素解糖系の寄与が大きい運動の実際の消費カロリーは、間接熱量計の測定値から算出した数値よりも大きいと思われる。

(2)の研究では血中乳酸濃度から、この無酸素解糖系のエネルギー消費量を推測している。(9)の論文では、論文著者と学生がウェイトトレーニングでの血中乳酸濃度から無酸素解糖系の寄与を算出したら、1セットあたり3-12kcalになったと書かれている。ただ筋肉中と血液中の乳酸濃度は異なるので、血中乳酸濃度から算出する方法も正確ではないだろう(もちろん呼気のみから消費カロリーを算出するよりは良い)。

ちなみに当初貯蔵されていたATP/PCrも無酸素で運動中に使われるけど、最終的には運動後の有酸素性エネルギー代謝により再び貯められるので、これらのエネルギー消費は呼吸の測定で拾える。

c) タンパク質摂取量の影響
多くの研究が尿素窒素を測定しないで呼気のみから消費カロリーを算出する方法を用いているが、この方法では摂取エネルギーに占めるタンパク質の割合が12.5%と仮定している。トレーニングに熱心な人はその倍くらいタンパク質を摂取していることが多いので、被験者がトレーニングに熱心な人で研究者側で食事をコントロールしていない場合は誤差につながる。



★トータルの消費カロリーが増えるかどうか
運動するとNEATが減ってしまう人もいる。トータルの消費カロリーが増えるかどうかは個人差があるだろう(関連記事:トレーニング効果の個人差)。運動して疲れた~とゴロゴロしてると、運動と運動後の安静時代謝上昇で消費カロリーが増えてもNEATが減って、トータルではあまり意味がないかもしれない。



参考文献:
(6) 接熱量計によるエネルギー消費量と基質代謝の測定
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/24/5/24_5_1021/_pdf

(7) Effects of excess post-exercise oxygen consumption
http://www.scielo.br/pdf/rbme/v12n6/en_a18v12n6.pdf

(8) Triglyceride/fatty acid cycling is increased after exercise.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2392063

(9) Contribution of anaerobic energy expenditure to whole body thermogenesis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1182393/

(10) 解糖 代謝マップ
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm