7/31/2015

体脂肪率の測定


人間の体脂肪の正確な測定は、死体にならないと無理である(食品の栄養成分分析みたいなことをやれば測定できるでしょう)。体組成計などで出される体脂肪の数字は大雑把な推測であり、数値の扱いには注意が必要である。


【体脂肪の推測方法】
★2分割モデル(two compartment model)
体組成を、体脂肪とそれ以外(除脂肪部分)の2つに分けて推測値を出す。除脂肪部分には内蔵や筋肉や骨や水分が含まれる。水中体重秤量法、空気置換法、生体電気インピーダンス法、皮下脂肪厚法などがこれに該当する。

★4分割モデル(four compartment model)
2分割モデルは誤差が大きくなりやすく、出来るだけ正確な体組成を知るための基準となる方法が必要である。その基準となる方法が4分割モデルである。4分割モデルでは、体組成を、ミネラル、水分、体脂肪、タンパク質の4つに分けて推測値を出す。具体的な方法は、水中体重秤量法もしくは空気置換法で身体密度を測定し、重水希釈法(Deuterium dilution)で身体水分量を測定し、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)で骨のミネラル量を測定する。これらの測定値を方程式に入れて、ミネラル、水分、体脂肪、タンパク質の推測値を算出する。以下、体組成の各推測方法の正確さは4分割モデルとの比較により判定する。


【誤差の種類】
ここのでの誤差を、4分割モデルとの差と定義する。誤差には、集団の平均の誤差と、個人個人の誤差がある。平均を比較すると4分割モデルとの差が小さくても、個人個人のデータを見ると差が大きく開いていることがありうる(多くの推測方法はこのパターンになる)。時間が経過し体組成が変わった時にその変化をどれだけ正確に測れるかという観点での誤差もある。


【体組成の推測方法】
★水中体重秤量法
水中体重秤量法は、水中に全身を沈め、水中での体重と置換された水量から身体密度を算出し、それにより体脂肪量を推測する方法である。

・問題点
- 肺に残った空気、皮膚や髪の毛などに付着した泡、消化管内の空気などが浮力に影響する。
- 除脂肪部分の密度から体脂肪量の推測値を算出するのだが、除脂肪部分の密度は人種によって異なる。また除脂肪部分の密度は、ダイエットなどで体重が変動すると変化することがあり、その時々の保水状態によっても変わりうる。

・誤差
水中体重秤量法は集団の平均では誤差が非常に小さい。人種による身体密度の違いを考慮した研究では多くは0.1%-1.2%程度、体脂肪量を過小算出するという結果が出ている。しかし個人個人の誤差はかなり大きくなる。高い場合は5-6%の誤差が出る。また時間経過による体脂肪量変化を求めようとした場合も、多くの人々ではそれなりに誤差が小さいが、一部の人々では10%程度の大きな誤差が出ている。残念なことに、水中体重秤量法は2分割モデルの中では最も誤差が小さい方法である。


★空気置換法(Bod Pod)
水中体重秤量法と同様の原理に基づく。研究によっては集団の平均の誤差と個人個人の誤差については水中体重秤量法と同程度の結果が出ているが、別の研究では水中体重秤量法より大きな誤差が出ている。時間経過による体脂肪量変化についてはかなり悪い結果が出ている。体組成評価に使うことお薦め出来ない。(力士の身体測定で使われているようです)。




★生体電気インピーダンス法
微弱な電流を身体に流す。除脂肪部分は水分を多く含んでいて電流を流しやすく、体脂肪は水分が少なく電流を流しにくい。得られた電気抵抗値から、除脂肪量と体脂肪量を推測する。

・問題点
- 電流は最も抵抗の小さいところを流れる。
- 除脂肪部分は保水状態の変動がある。
- 電流が流れるのは身体の一部分だけである。例えば両足のみ電極に接触するタイプの場合、片方の足から股間を通ってもう片方の足に電流が流れるだけで、胴体から上は無視される。
- 誤差の出る他の方法で出された体組成の推測値を元に推測値を出している。従って誤差が増幅される。通常メーカーは、多くの人を集めて、それらの人々を水中体重秤量法を用いて体組成の推測値を出し、体組成計の出す電気抵抗値と個人の変数(身長や体重や性別や年齢)から、水中体重秤量法の体組成推測値に相関する結果が出るように方程式を調整する。
(※タニタのサイトを見るとDEXAの推測値に相関するようにしているようです。DEXAも4分割法に比べると誤差があるので問題点は残ったまま。実際にタニタのサイトのグラフを見ると、体脂肪量のDEXAから個人個人のばらつきはかなり大きい。そしてDEXAも4分割法からの誤差がある)

・誤差
- ボディビルダーを被験者とした研究では、体脂肪率の4分割法との誤差(2σ)が8%という結果が出ている。
- 長期にわたっての体脂肪量変化についても結果は良くない。体脂肪量の減少を過小に出す傾向がある。ある研究では、体脂肪量の変化の推測について、生体電気インピーダンス法はBMIと同程度の正確さしかないという結果が出ている。

・結論
生体電気インピーダンス法を体組成の推測に使うのはお薦め出来ない。使うなら少なくとも3ヶ月、できれば半年の間を空けて数値を出す。出てきた数値は非常に大雑把な推測値でしかないというのをよく覚えておく。推測値に振り回されないように。(マルチ周波数で全身を測るタイプのは比較的良いかもとコメント欄に書き込みあり)。




★皮下脂肪厚法
キャリパーという計測器を用いて複数箇所の皮下脂肪の厚みを測り、その数値から身体密度をの推測値を出し、それを元に体脂肪率の推測値を算出する。

・問題点
- 皮下脂肪を一定の基準でつまむのに技術が必要。
- 身体密度の推測値を出す方程式は、それを開発するのに用いられた集団と同様の人種や年齢幅の人にのみ有効。
- 方程式を作るにあたっては水中体重秤量法を基準としているので、生体電気インピーダンス法と同様に、水中体重秤量法の誤差に皮下脂肪厚法の誤差が加わり、誤差が大きくなる。

・誤差
体脂肪率の誤差は、時間経過の集団の平均についてはかなり良いが、個人の誤差についてはかなり悪い。皮下脂肪厚法を用いる場合は、単純に皮下脂肪の厚さのみを測り、体脂肪率の推測値は算出しないことをお薦めする。皮下脂肪の厚さが減れば、体脂肪は減っている。



★二重エネルギーX線吸収法(DEXA)
骨密度の測定によく使われる。体脂肪、骨(ミネラル)、それ以外の部分の3つに分割して測定する。2分割モデルと異なり、人種間の骨密度の違いによる影響を受けない。身体の各部位ごとに体組成の推測値を出すことが出来る。

・問題点
- ハードやソフトによって出てくる数値が異なる。
- 扇ビームは視差による誤差が起こりうる。
- 除脂肪部分の保水状態に影響を受ける。

・誤差
- 集団の平均についてはかなり良いが、他の方法と同様に個人個人の誤差は大きくなる。
- 時間経過による体重変化についても個人個人の誤差はそれなりに大きい。

・結論
水中体重秤量法と同程度の誤差で、研究によってはそれよりも悪い。体組成の変化を追跡するのにDEXAを使うのはお薦めしないが、もし使う場合は最低でも3-6ヶ月の間隔を空けて使う。



★まとめ
体脂肪率の推測値を求める方法はどれも大きな誤差が伴う。しかしそれらの方法は無意味なのではなく、使い方に気をつけ、出てくる数字には大きな誤差があることを意識しておくことが重要である。
・体脂肪率として出てくる数字は大雑把な推測値であることを覚えておくこと。数字を鵜呑みにしない。
・時間経過による体組成の変化の推測値についても同様。
・最も優れた方法でも時間経過による体脂肪率の変化については4-5%程度の誤差がある。誤差以上に体脂肪率が変化する期間、最低でも3-6ヶ月程度は間隔を空けて測定すると良い。
・除脂肪部分イコール筋肉ではない。
・体脂肪率の推測値を無理に出そうとする必要はない。体重と身体各部位の周径(ウエスト等)の計測は、体脂肪が減っているのかどうかの良い目安になる。
・時間経過による体脂肪の変化を追跡したい場合は、水中体重秤量法か皮下脂肪厚法をお薦めする。極度の肥満の人の場合はこれらの方法には向いていないので体重と周径の計測を行う。
・皮下脂肪厚法を用いて体脂肪の変化を追跡する場合は、体脂肪率の推測値を計算する必要はない。各部位の皮下脂肪厚を足しあわせ、それが減っていれば体脂肪は減っている。
・どのような方法を用いるにせよ、測る時のコンディションを同一にする。同じ技術者が、同じ機器を用いて、日の同じタイミング(食事や保水状態や運動)に行う。



【参考サイト】
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”: Part 1
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=146

The Pitfalls of Body Fat “Measurement”: Part 2
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=162

The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 3: Bod Pod
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=175

The Pitfalls of Bodyfat “Measurement”, Part 4: Bioelectrical Impedance (BIA)
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=218

The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 5: Skinfolds
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=250

The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 6: Dual-Energy X-Ray Absorptiometry (DEXA)
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=260

The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, The Final Chapter
http://weightology.net/weightologyweekly/?page_id=283



★私のコメント
コメント欄の日付を見ると2010年頃の記事と思われ、その後の技術発展で各測定方法の正確さが向上している可能性もあります。メーカーのサイトを見る場合は、集団の平均の誤差と、個人個人の誤差を分けて考える、どの方法と比較して正確さを謳っているか、どの方法で得られる体組成の値に相関するように作っているか、といった点に気をつけると良いと思います。

私が体脂肪量の変化を追跡する場合は、体重、ウエスト、見た目の変化をチェックします。筋肉量がどうなっているかはウェイトトレーニングの重量の変化をチェックします。体組成計は使いません。誤差が大きいものだとわかっていても、残念な数字が出るとモチベーションが低下してしまうので。

男性は太った痩せたがウエストに如実に表れるので、ウエストを測定すると良いと思います。女性の場合はよくわからないのですが・・・皮下脂肪の付き方に個人差があるので、太腿、ヒップ、ウエスト、二の腕あたりを測っておくと良いと思います。単純に、以前はきつかったパンツがゆるくなったとかでも良いと思います。

多くの人が日常的に利用できる体組成計は生体電気インピーダンス法です。この方式の機器は大抵は体重を減らせば、低い体脂率が出るようになっています。低い体脂肪率の数字を出したかったら、まともに食事運動をせず体脂肪と除脂肪体重を減らすのが手っ取り早いです。不健康な痩せ方を助長しているように私には思えるので、正直これらの機器のメーカーに対しては良い印象を持っていません。プロスポーツの世界でも、不正確な機器で算出された体脂肪率の値を絶対視する傾向があるように思えます。

アスリートなら、競技パフォーマンスと階級制競技の場合は体重を気にすれば良いでしょう。ボディメイクやボディビルやフィジーク競技を行うなら、見た目を気にすれば良いです。体組成計が出す体脂肪率に振り回されないことが大事です。